前回の引き続き、組織行動論の中の1テーマである ”モチベーション” について、まだまだ現場で役立つことはあるので書いていく。(前回ブログ)
パワー・親和・達成の欲求
アメリカの心理学者であるマクレランドさんが唱えたもの。仕事では、以下の3つの主要な欲求があるらしい。
1.達成欲求:ある一定の標準に関して、それを達成させようという欲求
2.パワー(権力)欲求:他の人に何らの働きかけがなければ起こらない行動をさせたいという欲求
3.親和欲求:友好的かつ密接な対人関係を結びたいという欲求
参考文献:S.P.ロビンス著 高木晴夫訳『組織行動のマネジメント』ダイヤモンド社 2009年(Amazonへ)
全ての人が上記3つの欲求を持っていると思われるが、どれがより強いかは個人差があるだろう。
マネジャーとしては、部下が自分の目標を達成するように支援することが大切な役割なので、ここでは部下の 「1.達成欲求」 をいかに刺激するかに関して考えてみたい。
達成欲求が強い人は、成功や達成によって得られる報酬(ボーナス、昇進昇格など)が狙いではなく、目標を何としても成し遂げたいという欲求が努力の源泉である。前回よりもうまく/効率的にやりたいという欲求を持っている。
ただし、放っておいても達成欲求が発動されるかというとそうでもないようだ。この欲求が喚起されるには以下のような条件が必要なようである。
- 条件1:偶然や他人の行動に結果が左右されることなく、自己責任・努力のもとで成功を目指せること
- 条件2:成功確率がフィフティフィフティであると感じられること
- 条件3:迅速・明快なフィードバックがあること
達成欲求が強い部下に対して、彼/彼女らの達成欲求を喚起するためにマネジャーに何ができるだろうか。
実務につながるヒント(その1)
条件1を考慮すると、部下に対しては、あれこれ口出し/手出しをしない方が良さそうだ。
ついつい口出しをしたくなっても我慢、我慢。彼/彼女のやりたいようにやらせてみる度量がマネジャーに必要だ。
実務につながるヒント(その2)
条件2を考慮すると、目標設定のポイントでよく言われる ”背伸びして届くかどうか” くらいの目標が良いようだ。目標は難しすぎてもダメだし、簡単すぎてもダメだということ。
まあ、この点も現場のマネジャーは肌感で分かっているだろう。
実務につながるヒント(その3)
条件3を考慮すると、部下に対しての、タイムリーで具体的なフィードバック が重要だ。
フィードバックは ”手ごたえ” である。営業職のように、お客様からの返事や注文といった、わかりやすい ”手ごたえ” を得られる仕事であれば良いが、”手ごたえ” を得られるまでにタイムラグがあるとか、そもそも ”手ごたえ” が得られづらい仕事の場合、マネジャーは意図的に部下にフィードバックを提供したほうがよい。
フィードバックは最終成果に対してだけでなく、プロセスに対しても提供する。リモートワーク下であれば特にだが、部下と定期的な面談(1on1)を行い、フィードバックの機会をつくること。
部下の達成欲求を喚起すること
上記3つの条件を同時に満たす必要があるのかどうかは、私の読んだ本の限りでは書かれていない。
「達成欲求」を喚起し、モチベーション高く仕事に向かってもらうためのポイントとして、記載したようなことを押さえること。
まあ、ここまで書いたようなことは、現場の多くのマネジャーができている気がするが・・・。
目標設定理論
具体的、且つ達成するのが難しい目標は、「ベストを尽くす」といった抽象的な目標よりも、部下の努力を引き出し、高いレベルの結果が出せる ようである。
ただしそれには条件があり、難しい目標を部下が受け入れれば、の話である。
では、部下に目標を受入れやすくするためにはどうするか・・・。目標設定に関与させることのようだ。つまり、一方的に目標を与えないこと。
実務につながるヒント(その4)
達成が難しいと思われる目標については、目標設定のプロセスに部下を関与させること。
部下が難しい目標を受け入れた場合、その目標は高ければ高いほど、成果もより高いものになる。
マネジャー研修でお会いするマネジャーから、「うちの会社は、上から降りてくる目標がべらぼうに高いんですよね。目標を伝えた時点で部下のモチベーションが下がっていますよ」と聞くことがある。
この状態は、一方的な伝達の典型例で、目標設定のプロセスに部下を巻き込んでいない・・・。
とはいえ、目標自体をマネジャーの一存で変えることができないのであれば、「上から降りてきたのだからやるしかないのさ」と、やらされ表現で部下に示すのではなく、「この高い目標にどう立ち向かっていくか、知恵と力を貸してくれないか」と前向きに参画を促すことが、我々マネジャーにできることか。
あれっ?前半の話と矛盾していないか?
今日の前半の話では、”目標は背伸びして届くくらい” が達成欲求(モチベーション)に好影響と言ったのに、ここでは ”難しい目標” が良いと言っている・・・。
矛盾してる?
どうやらそうではないらしい。
”難しい目標” を設定する目標設定理論は、一般的な人を対象にした研究で明らかにされたもの。
ところが、”背伸びして届くくらいの目標がいい” としているマクレランドさんの理論は、達成欲求の高い人だけを対象にした研究の結論らしい。要注意だ!
実務につながるヒント(その5)
実は、多く人にとっては、”背伸びして届くくらい目標”よりも、”難しい目標” にするほうが(モチベーションと成果創出の観点で)望ましい。
※ 目標を部下が受け入れるという前提の話だが。
部下に ”難しい目標” を受け入れてもらうためには、マネジャーの出すメッセージに工夫が必要だ。
例えば、メッセージの中に、目標の背景や意義、達成の重要性、それは組織にとってのものだけでなく、部下自身にとってのものも伝えられると最高だ。
目標設定は、後に行われる「評価」のために重要ともいえるが、部下のモチベーションにとっても重要な行為である。
部下の成長を促すためにも、部下としっかりと話し合って、できるだけ難しい目標に挑戦させること。
未達だった場合の低評価を恐れて、チャレンジングなことをやりたがらない部下も多いが、マネジャーとして「難しい目標をやってみないか(サポートするからさ)」持ちかけてみてはどうだろうか。
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次回も、モチベーションに関する内容である。(まだまだ役立つ理論がある)
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