「人材育成・組織開発を考える部屋」にもお立ち寄りください!

若者のキャリア意識は本当に高いのか?

cropped-red-mouse-computer-1.jpg 研修担当者のための部屋
この記事は約6分で読めます。

近年、国が主導し、社会的・職業的な自立を目指して、学校や大学でキャリア教育が行われている。

大学では学生が自らのキャリアに関して考える機会を色々と用意しているようである。自己分析をしたり、業界や企業の分析をしたり、(最近は趣旨が変わってきているようだが)インターンシップもその一環だ。

では、キャリア教育を経て、最近社会人となった若手社員の実態はどうなのだろうか。社会的・職業的な自立に向けた意識や行動に変わりつつあるのだろうか。

*************

私のいる会社で、「20代社員の就業意識変化に着目した分析」と題する調査結果を公開している。(→ 関連サイトへ

調査結果を見ると、国の狙い通りに、自らのキャリアを主体的に考える意識が少しずつ醸成されつつあるように見える。

しかし、ある本を読んで、今どきの若手社員を「キャリアや成長への意識が高い」と見立てるのは危険なのではないかと思った。

以下の本である。

金間大介 著『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』東洋経済, 2022年

著者は、金沢大学 総合研究域融合科学系 教授(東京大学 未来ビジョン研究センター 客員教授)。

タイトルに惹かれて手に取ったのだが、組織マネジメントに関して考えさせられることがいくつかあった。以下は私の感想(の一部)である。

*************

いい子症候群

この本では、今の若者(大学生から20代半ば)を「いい子症候群」と称して論じている。「いい子症候群」の行動原則を複数提示している(22~23ページ)。一部を記載すると・・・

*学校や職場などでは横並びが基本
*言われたことはやるけど、それ以上のことはやらない

*人の意見はよく聞くけど、自分の意見は言わない
*一番嫌いな役割はリーダー
*質問しない

*競争が嫌い

などである。

項目を見ると、国が狙っている ”社会的・職業的な自立” とは正反対とも言える様相である。

本当に「言われたこと以上のことはやらない」とすれば、若手社員に一から十までやり方を細かく教えなければならないし、そんな状況だと、指導する人以上の人材にはならないような感じもする。

何か分からないことがあっても質問してこないとすれば、こちら(マネジャー)から「大丈夫か?何か問題はないか?」とマメに声をかけないと、気が付けば、仕事が全く進んでいなかったなんてことが起こりそうだ。

いい子症候群の若者は、”自立” とは程遠く、マネジャーはこれまで以上に彼/彼女らの指導や育成に時間もエネルギーも注ぐ必要がありそうである。

*************

若者は ”安定” を目指している

若者対象のアンケートにおいて、若手が活躍できる会社には興味がないという結果。・・(中略)・・「若いうちから活躍できる=黒めの会社」という図式は、学生の間でもある程度共有されている。(130ページ)

よくよく彼らと話してみると、「安定」にはメンタル的な意味でのそれも多分に含まれていることがわかる。(131ページ)

マイナビさんが行ったアンケート「2022年卒大学生就職意識調査」では、「安定している会社」が1位のようである。

「安定している会社」と聞けば、普通は「つぶれない会社」をイメージするだろうが、それに加えて、上司や周囲がガツガツしていない感じの、安定したメンタルで働けるニュアンスも含まれていると、金間先生は分析している。

本の情報を整理してみると、今どきの若者は、つぶれなさそうな会社への入社を志向し、周囲からガツガツ言われない状況下で、目立たず、精神的に安定した環境下で働きたいと思っているようだ。

一方で弊社調査結果を見ると、今どきの若者は、自らのキャリアに対する意識が高く、自らのスキルや能力を向上させ、資格取得に励み、成長実感を得たいと思っているようだ。

う~ん・・・。

両者のイメージがどうもつながらない。どう解釈すればいいのだろうか。そもそも、今どきの若者は何をやりたいのだろうか。

*************

若者はやりたいことがない

本書で議論しているいい子症候群の若者たちには、特にやりたいことはないのだ。(146ページ)

ズコっ!

そもそもやりたいことがない!?

ということは、将来のキャリアイメージなどないということにならないか?(まあ、もしそうなら従業員のキャリア自律を促すという、昨今の取組には十分意味がありそうだが・・・)

自らのキャリアイメージがないのに、何のスキルや能力は伸ばしたいのだろうか?何の資格を取りたいのだろうか?

もしかして、最近よく聞く「社会貢献」に向けての能力アップ狙い?

*************

若者は社会に貢献したい

社会貢献について、最近の若者はどう思っているのだろうか。

この点については、先ほど紹介した弊社調査に限らず、様々な調査で現状が明らかにされている。 (→ 例の1つ、リクルートワークスさんの関連サイトへ

多くの調査結果で「最近の若者は社会貢献への意識が高い」と言っている。なんと意識の高い、立派なことだと思ってしまうが、本の中で金間先生はこう述べている。

それ(いい子症候群の若者たちの考えている社会貢献)は、誰かに「貢献する舞台」を整えてもらった上での貢献を意味する。責任を取る誰かがいて、調整してくれて、意思決定もしてくれて、その上で自分らしさを発揮するお膳立てをしてもらってするのが社会貢献。さらに事後には「君がいてくれて本当に良かった、いつもありがとう」と言ってもらうのが社会貢献(154ページ)

と。

今どきの若者は、競争関係も評価もなく、受動的で、目立たずに、匿名性のもとで、多くの人から感謝される点(承認欲求の充足)に価値を感じて、社会貢献したいらしい。(それって、つまりボランティアしたいってこと?)

ビジネスとして「社会のために何をすべきか/何ができるか」を主体的に考え、自ら意思決定し、行動するような感じのものではないようだ。

ふ~。

やはり、国の目指している「社会的・職業的な自立」とは異なる状況があるようだ。キャリア教育の成果がまだ出ていないだけなのか?

*************

まとまりのない文章でしたが、今日は今どきの若者に関して考えてみました。

やりたいことはない、でもスキルや能力は高めたい/資格は取りたい・・・。これは、先の見えない時代への不安から、能力向上が目的化してしまっているのでしょうか。

社会貢献はしたい、でもお膳立てはしてほしい・・・。これは、SNSの影響で、「いいね!」が欲しいだけの承認欲求モンスターが生まれた結果なのでしょうか。

今どき若者は、大きな組織に依存しがちだが、そこに愛着は持たない存在な印象です。

マネジメント側からすると、とても手のかかる人種が生まれてきているように思えます。今どきの若者はキャリア意識や成長意欲が高い!という調査結果や言説には注意が必要な気がします。

※もちろん、すべての若者を指しているわけではありません。あしからず。