近年、ホントによく聞く言葉として、”心理的安全性” があります。皆さんもどこかで聞かれたことがあるのではないでしょうか。関連書籍が数多く売られています。
個人的には、現在の ”心理的安全性” に関する書籍に対して空虚なイメージを持っています。それは、”心理的安全性” という概念そのものに対するものではなく、本の内容に対するものです。
何冊か手に取りましたが、いずれの本にも「こうすれば ”心理的安全性” が高まる!」と銘打ち、ノウハウが書かれてます。中身を読んでみると、
その程度のことで ”心理的安全性” が高まるんなら世話ないわ!
と、私には感じられてしまうのです。
あっ、いけませんね。もっと素直に受け入れる心を持たねば・・・・
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そんな中、九州大学大学院の山口裕幸先生が ”心理的安全性” の本を出版されているのを発見しました。山口先生の本は以前に数冊読んだことがあり、いずれも有益な内容でしたので、期待して購入しました。
山口裕幸 監修『そうだったんだ!心理的安全性』永岡書店(2023年)
イラストをふんだんに用いていますので、文字ばかりが苦手という方にとっては手に取りやすいと思います。
内容に関しましては、コンサルタントや実践家の個人的経験知とは異なる、研究から生まれた知をもとに書かれています。 ※ 研究者の本ですので当たり前ですね。
読んだ感想として、幾つかの学びはあったのですが、他の ”心理的安全性” に関する書籍への感想と大きく異なるものではありませんでした。本の後半の内容がマネジャーへの「ノウハウ付与に」偏重していると感じられたからです。
山口先生ご自身も途中に書いておられましたが、”心理的安全性” は「組織開発」という生々しい、長期的な営みを伴わないとなかなか高まらないのでないかと思います(→ 組織開発に関するパーソルグループさんの記事へ)
売れる本をつくるには、「ノウハウ付与」という形で、読み手にとって分かりやすい解決策を提示しなければならない事情があるのかもしれませんね。
”心理的安全性” に関する本は、コンパクトにまとまったノウハウ本に向いていないと思います。
とはいえ、本の中に ”心理的安全性” に関して、ミドルマネジャーが注意したほうが良いと思われることが書かれていました。
ずいぶんな前置きになりましたが、今回はその点について書きます。
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こんなことが書かれていました。
心理的安全性は、上司と部下の間の力(権力・権威・裁量など)の格差が大きいチームほど低くなる傾向があります(40ページ)
続けてこうあります。
力の強い上司ほど、「自分の考えは正しい」「部下は上司に従うもの」といった古い考えにとらわれていることが多く、また、そうした上司を持つ部下ほど「上司の意見に反対してはいけない」「上司の言うことは絶対」といった固定概念にとらわれがちになる(40ページ)
まあ、そうでしょうね
「力の強い上司」 を言い換えますと「威張っている上司」といったところでしょうか。個人的な経験から、そんな上司は以下のような傾向を持っているような気がします。
*肩書で呼ばれることを好む / 肩書を気にする
*部下を〇〇さんを呼ばない。「お前」と呼んだり、呼び捨て扱い
*会議や飲み会では、上座に座ることを当たり前と考えている
*挨拶は部下側からするものだと思っている
*恩着せがましいことを言う 「あいつは俺のおかげで・・・」
*個室大歓迎
などなど。
「力の強い上司」は、本人がもともと持っていた資質がそうさせるのか、組織の中で後天的に学んだ結果としてそうなるのかは分かりません。
いずれにしましても、上司と部下の間にある「力の差」は、”心理的安全性” にとっては良くないらしいです。
ミドルマネジャーの皆さん、
思わず、威張っちゃっていませんか?
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関連して、興味深い論点をひとつ。
モチベーションに関する研究に「マクレランドの欲求理論」なるものがあります(→ 日本の人事部さんのサイト マクレランドの欲求理論)。その理論では、人が行動する動機には4種の欲求があるとされ、そのうちの一つとして「権力欲求」という概念があります。
そして、こんな説があります。
権力欲求の強い人はマネジャーに向いている
と。
マネジャーに向いているということは、権力欲求の強いマネジャーは、”組織として高い業績を上げられる人” ということなのでしょう。権力欲求の強いマネジャーは、上述した「力の強い上司」とほぼ同じイメージだと思います。
じゃあ、威張っていても問題ないじゃないか!
と言えてしまいそうですが、上記しましたように「力の強い上司」≒ 「権力欲求の強いマネジャー」のいる組織の ”心理的安全性” は低いという点を思い返しましょう。
情報を整理しますと、
1.権力欲求の強いマネジャーのいる組織 ==> 組織として高い業績をあげる
2.権力欲求の強いマネジャーのいる組織 ==> 組織の心理的安全性は低い
となります。
そもそも、Google社でのプロジェクトから生まれた ”心理的安全性” という概念は「生産性につながる」と言われています。とすれば、以下のような関係も謳えそうです。
1. 権力欲求の高いマネジャーのいる組織 ==> 組織として高い業績をあげる
2’. 権力欲求の強いマネジャーのいる組織 ==> 組織の心理的安全性は低い ==> 組織の生産性は低い ==> 組織としての業績は低い
1と2’では、業績の点で真逆のことを言っています。1と2’の両方を成り立たせるには、以下のような仮説が考えられます。
● 短期的に高い業績をあげたい場合は、権力欲求の強いマネジャー(力の強い上司)に任せるのが良い
● 権力欲求の強いマネジャー(力の強い上司)に組織を任せ続けていると、心理的安全性を媒介し、業績が低下する
この仮説、あながち外れていない気がします。皆さんはどう思われますか?
もし、この仮説が成立するならば、
威張り続けちゃっている人、要注意です!
いずれ、あなたの組織は下降線をたどりますよ、ということなります。
威張り続けていれば、自分が威張っていること/部下が嫌々従っていることを自覚できないのかもしれませんね。くわばら、くわばら。
ついでに言えば、威張り続けている人を昇進させている会社も先がない気がします。人手不足の時代、どんどん人が逃げていきそうです・・・。寒っ!!
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今日は威張ることについて、心理的安全性とのつながりで私見を述べました。
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