今の時代、コンプライアンス遵守を掲げている組織(会社・自治体など)が殆どだと思いますが、残念ながら、それでもハラスメントに関するニュースがチラホラ聞こえてきます。

ハラスメントの中でも、上司による部下へのパワハラにフォーカスして書かれた本を読みました。以下の本です。
津野香奈美 著『パワハラ上司を科学する』ちくま新書 2023年
国内外の先行研究を踏まえた(タイトル通りの)内容で、「なるほど」と思うことがたくさんありました。本書は、人事・労務に関わる方々はもちろんですが、現場のミドルマネジャーの皆さんにとっても参考になるであろうことがたくさん書かれています。
今日は、この本に書かれていることを引き金に、部下や職場のマネジメントに関して思うところがありましたので記事にしたいと思います。どうぞお付き合いください。

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「部下のためを思って」 は言い訳になりません
これまでにパワハラと認定された多くのケースで、パワハラの行為者(加害者)側は、
部下のためを思って言った(やった)
と主張するそうです。
「部下のためを思って」という考え自体はOKなのですが、ミドルマネジャーとして注意しておきたいのは、
着目すべきは、行為者や被害者の認識がどうだったかではなく、「行為そのもの」「手段」「表現の仕方」が不適切かどうか(29ページ)
という点です。
行為者(上司)や被害者(部下)がどういうつもりであったかは関係なく、行為者(上司)の言動そのものが、社会通念上で不適切でないかどうかが判断基準だということのようです。
そのように考えますと、部下を叱ること自体は否定されているようには思いませんが、叱り方にはかなり要注意ですね。まして、怒鳴ることはきっと論外ということになりますね。
※ 叱ることの効果も科学的に否定されている点を、以前にブログ記事にしています(→ 当該の記事へ)。

世の中がだんだん緩い(甘い)感じになってきている風潮を危惧してなのか、部下を怒鳴ること(や脅すこと)を正当化するかのような発言をする“昭和型マネジャー”がまだまだたくさんいます。
部下を怒鳴っても、彼・彼女の健全な成長や行動変容には、(科学的にみて)良いことなど何もないという点を知るべきです。
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ミドルマネジャーとして、もう1つ注意したいのは、
真面目で上司の期待に応えようとするタイプの部下は、本人が不調を訴えていなくても、突然メンタルヘルス不調になったり燃え尽きてしまったりして会社に来られなくなる場合もある(39~40ページ)
という点です。
ミドルマネジャーの皆さん、「部下のためと思って」、部下に厳しいノルマや課題を与えたり、厳しい口調で指導したりしていませんか?
ミドルマネジャーが自らの言動や部下の様子を振り返り、
■ もしかしたら、部下はプレッシャーを感じているが、私へ弱音を吐けないのかもしれない
■ 部下は、私や周囲から“能力がない”と思われたくないので、「できません」と言えないのかもしれない
といったように、部下の気持ちを想像できればいいのですが、パワハラ行為をするような人は、そんな想像力が働かないのでしょうね。
それどころか、こういった類いの人はきっと、

無理なら無理とどうして言ってくれないんだ!
と、まるで部下のほうが悪いかのように言いそうです。

更に言えば、パワハラ被害者に対する不適切な言動をその周囲で聞いている人たちは、
*彼/彼女にそこまで求めるのは酷ではないか?
*そんな言い方をしなくてもいいのではないか?
*自分には関係ないのだが、あんなに怒鳴ってるのを聞くと、職場の雰囲気が悪くなって嫌だ
*明日は我が身。この職場では、目立たず騒がずにいるのが一番

とか思っているかもしれません。
そんな職場だと、高いパフォーマンスを出し続けるのは困難(短期的には、脅し効果で成果を出せる可能性あり)でしょうし、もし職場に何か問題があった場合に、マネジャーに大事な情報が上がってこないでしょうね。それが組織の不正・不祥事につながっていくなんて最悪のストーリーもありそうです。
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なぜ、上司はパワハラをしてしまうのか
本の第2章の中で「なぜ、上司はパワハラをしてしまうのか」について、このように書かれています。

管理職になると、ある程度は自分の思い通りになる力が手に入るからです。次に、権力を手に入れたり社会的地位が高くなったりすると、人は横柄になる傾向があるから(47ページ)
だそうです。
ミドルマネジャーの皆さん、思い当たる節はありますか?自分ではそんなつもりはないと思っていても、周りから見るとそうなっている場合があるかもしれませんよ。

態度や言葉遣いからして、横柄な人を結構みかけますね。ミドルマネジャーもですが、シニアマネジャーも同様です。自戒を込めて言いますが、謙虚さは忘れたくないものです。
本の中には、パワハラ行為者の性格特性に関して色々と書かれていますが、その中で、「正直さー謙虚さ」という特性に関して、このように書かれています。
正直さー謙虚さというのは、他者と関わる際に公正で誠実である傾向を示します。正直さー謙虚さが高い人は、他者を利用せず、他の人の利益を最優先する傾向にあります。逆に、正直さー謙虚さが低い人は、利己的で非倫理的な行為を行ったり、搾取したり、詐欺を働いたりして他者を操作したり利用したりする傾向にあります。また、自分自身が快適にかつ贅沢に暮らせるかに最も関心があり、それに対して優越感を持つ傾向にある(72ページ)
とのこと。皆さんのご想像通り、正直さー謙虚さの低さは、パワハラ行為者の特性のようです。
皆さんは、
1.目的達成のためなら手段を選ばないということはありませんか?
2.部下への共感力や良心が欠けていませんか?
3.これまでに部下をタダ働きさせたり、部下の手柄を横取りしたりするなど、部下を不当に利用したことはありませんか?
どうですか?

これらの質問に自ら「イエス」と答えるマネジャーはいないかもしれませんね。
あるいは、パワハラ気質をもった人は、1番・2番の問いに「イエス」と答えた上で、「だからどうした?どこが悪いんだ?」なんて言いそうな気がします。
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では、パワハラ上司にならないためにはどうすれば良いのか。本の中には4つのポイントが紹介されています。以下の通りです。
- 「部下と自分は対等な同僚だ」と認識する
- 安定した自尊心を持つ
- 感情知能を高める
- ストレスにうまく対処し、体調を整える
特に1番目の「部下と自分は対等な同僚だ」について、著者はこう言っています。

上から目線ではなく、「優越性」「横柄さ」「傲慢さ」を手放せば、パワハラの可能性は低くなります(194ページ)
だそうです。
以前に、「威張るのをやめましょう!」とブログに書きました(→ 当該の記事へ)が、パワハラという観点以外にも、部下に威張ってみせるとか横柄な態度を見せるのは、組織にとってマイナスなことしかありません。

そんなつもりはない、と言っている人でも結構そうなってみえますよ。ご注意ください!
3番目の「感情知能を高める」が、上記しました“部下の立場で考える”ということに関係しそうです。具体的にどうすれば良いのかは、本を手に取って読んでみてください。自分はパワハラ行為など絶対にしないと思っている人も、この本を読むとマネジメントの質が良くなると思います。
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今日は、パワハラに関する本をヒントに記事を書きました。
2020年のハラスメント実態調査の結果を見ると、過去三年間にパワハラを受けていた人の割合は労働者の31.4%だそうです(30ページ)。
決して対岸の火事ではありません。
津野香奈美 著『パワハラ上司を科学する』ちくま新書 2023年
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