多様性(ダイバーシティ)に関して、多くの企業が何らかの取組みを掲げていますね。
多様性にも様々な観点(区分)がありますが、生物学的な観点として男性と女性という区分があります。この男女間の多様性の(貧相さがもたらしている)問題に関して、2冊の本を読みました。
■浜田敬子 著『男性中心企業の終焉』文春新書(2022年)
■ルディー和子 著『男子系企業の失敗』日本経済新聞出版(2023年)
両方とも面白い内容でした。デジタル化・日本文化・日本人の特性・企業システムなどが複雑に絡みあって、30年以上続いている、停滞した日本の経済状態があるんだなぁと改めて感じました。
特に、大企業に勤めている(特に40代以上の)男性・正社員は、精神面、処遇面で相当に覚悟しないといけない(犠牲にならないといけない)だろうなぁとも感じました。
以下は、上記の本をきっかけにした私見です。皆さんはどう思われるでしょうか。
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損を避けようとする日本人男性(男子)
ルディーさんの本では、有名「ホフステードの国民文化モデル」を用いて、
損失回避性
という観点から、男性が大多数を占める企業の問題を提起されています。
※ホフステードの国民文化モデルに関する参考書籍:
宮森・宮林 著『経営戦略としての異文化適応力』日本能率協会マネジメントセンター(2019年)
ホフステードのモデルによると、6次元あるうちの1つである ”男らしさ(男性性)/女らしさ(女性性)” において、日本は76か国中で2番目に「男らしさ」が高スコアです。そして、「男らしさ」が強さは損失回避性との相談が高い(としている論文がある)ようです。
「男らしさ」は、富や業績、成功といった自分のプライドを満たす目標に重きを置くが、同時に、周囲やライバルから後れをとりたくないという心理も働き、損失(失敗)を避けようとする・・・。
それに加えて、ルディーさんの本では、脳の偏桃体が持つ機能を切り口にこんなことを言っています。
偏桃体は本能的な恐れの感情を処理しているらしく、この偏桃体を活性化させやすい遺伝子を、我々日本人は世界で一番高い割合で持っているらしく、それが日本人の損失回避性の高さに繋がっているのではないかと。
だから、戦後以降の長らくの間、男性(男子)中心で経営してきている多くの日本企業は、挑戦や冒険を避け、現状維持という意思決定に落ち着き、停滞状態を30年以上も続けている・・・・・。
ルディーさんの主張、なんとなく分かる気がします。
自分たちが同質であることに気づいていない男性(男子)
これもルディーさんの本の内容ですが、日系企業の
同質性の高さ
を問題点として主張されています。
この点は浜田さんの本の中でも言われています。日本のビジネス社会で中心的に働いている(いた?)のは「日本人×男性×正社員」という同質性の高い集団ですね。
同質性の高さは、僅かな期間でも、日本を離れて(特に欧米で)仕事をしてみるとよく分かりますね。
厄介なのは、
同質性の高い集団は、自分たちが同質性の高い集団であることに気づかない
ことのようです。そして、
他集団(外集団という言い方もする)よりも、自分たちのほうが優秀である
という身内びいきをしてしまう傾向もあるようです。なので、外からの圧力がかかるまで、変革する必要性を感じない・・・。
ルディーさんがおっしゃるように、多様性をうんぬんする前に、同質性がもたらした(もたらしている)弊害を、まず認識するような取組みが必要だと思います。
多様性に関しては、多くの会社が「アンコンシャス・バイアス」に関する研修をやっているようですが、その中で同質性のもたらしている負の出来事に触れたりしているのでしょうかね。
同質性の高い集団の中で、自分だけ異質なことをやるのは、仲間外れにされたくないのでやらないでしょうね。まあ、上記しました損失回避性が影響し、そもそもそういった行為をしないでしょうしね。
さらに言えば、終身雇用を前提とした社会の中で育ってきていると、「嫌なら外へ出る(=転職)」という思考が弱いので、余計に ”出る杭” にはならないですよね 。
もっと言えば、海老原(2021)が「日本の労働現場には「二人の神様がいる」」と言っていますが、そのうちの一人が ”上司”(ちなみに、もう一人は ”顧客”)。
評価の基準が曖昧で、上司の心象ひとつで評価の良し悪しが決まることの多い日本企業においては、上司の存在が ”神” 。(心底崇めているかは別ですけど)
そのために、上司と意見が異なることがあっても言わない/主張しすぎないことが、組織で生き残る/出世するためには大事なこと。なので、異質な意見・尖った意見は日の目を見ることなく消え、組織は現状維持の状態が続き、徐々に行き詰っていく・・・。
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自分たちが同質性の高い集団にいることを、まずは自覚しないとまずいですね。そして、自分たちは決して飛びぬけて優秀な存在ではない。もっと優れた組織は世の中にたくさん存在するんだという認識を持ち、自分たちを自分たちの手で変化させていく勇気を持つ・・・。
そういえば、ルディーさんの本の最後に、
感情的勇気を醸成する多様性のある組織
にならないいけないと、「勇気」というワードが出てきています。(これまでも、勇気(courage)がリーダーシップの要素として、ちょいちょい出てきている)
会社や仕事への満足度は低い。でも転職する気はない。というリアル
パーソル総合研究所さんの調査(→ 該当のサイトへ)で、日本人は、
転職もしたくなければ、働き続けたくもない
という傾向があるそうです。低意欲で、今の職場で働き続けている・・・。
※参考図書:小林祐児 著『リスキリングは経営課題』光文社新書(2023年)
もしそんな状態が、同質性が高い集団の中で、しかも福利厚生が充実しているような ”ゆるい職場” で起こっているとすれば、会社が取組んでいるダイバーシティに関連した動きをどう捉えているのでしょうね。
ネガティブに捉えられることまではないとしても、面倒と感じているか、無関心、他人事という感じではないでしょうか。
ルディーさんの本でも、ある調査の結果で「従業員は多様性の低い職場のほうを好む」と書かれています。確かに、多様性の豊かな職場はコンフリクトが増しそうなので、従業員満足度は減少しそうですもんね。
とすれば、各企業が人的資本経営に関連して取り組んでいる「エンゲージメント・スコア」を高める動きと、多様性(ダイバーシティ)を推進する動きは逆相関関係になり得ます。
企業はエンゲージメント・スコアを高めることが目的ではありませんので、そこを踏まえたうえで、多様性(DEI)をいかに豊かにしていくかを考えないといけませんね。
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浜田さんもルディーさんも「(女性管理職比率のような)数値目標を明確に掲げることは有意味」とおっしゃっています。
色々と反対や抵抗はありますが、次の世代に良いパスを渡したいのであれば、現在のミドル・シニア層の男性は、管理職・非管理職を問わず、精神的・処遇的な痛みを一定程度は受け入れる覚悟が必要だと思います。(もちろん、自分も含めて)
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日本人・男性・正社員である自分の思考や言動、所属する組織の習慣などを内省し、これからの身の処し方や組織での振る舞いを真剣に考えないといけないなと思いました。
参考図書①
参考図書②
参考図書③
参考図書④
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