松下幸之助翁の言葉とされる「事業は人なり」。
「人材こそが競争優位の源泉」とか「人が育つ企業を目指す」とか謳っている会社は昔から結構ある。
最近では、持続可能な成長に向けて、”人的資本経営” といった言葉が出てきている(→関連する経産省のサイト)が、これまで以上に ”人材” に重きを置いた経営にスポットが当たっている。
だが、本当にそうなれるのだろうか。
私は、今のままでは相当に難しいと思っている。その理由を、私が関わっている ”研修” の観点から2点から述べる。
**************
1.イベント型研修はほぼ無意味
多くの人が「意味がない」と分かっているにも関わらず、継続されている慣習がある。
イベント型(One shot型)の研修
である。 ※ ヒューマンスキル系、コンセプチュアルスキル系は特に。
Q. 1回の研修で学んだことを現場で活用し続けて、体得した経験がありますか?
この問いに「YES」と答えられる人はごく少数であろう。研修を企画する立場の人でさえそうかもしれない。
誰もが分かっている。なのに、ずっと同じことを繰り返している。
トップマネジメントが、 「当社では人材育成に注力している」
的なことを言っている会社でさえそうである。 ※「人材育成=研修」ではないのを承知で言っています。
そういった発言しているご本人が、
過去に自分が受けた(イベント型の)研修のおかげで、その後の態度や行動がポジティブに変わった
という経験の持ち主であれば、こう言いたい。
世の中の多くの人が あなたと同じではない ですよ!
と。
反対に、自らも過去に受けた研修をほとんど覚えていないにも関わらず、
「うちの課長たちはマネジメントができていないんじゃないか。全員集めて研修をやれ!」
と言っているお偉いさんがいるとすれば、こう言いたくなる。
どの口がそんなことを言っているんですか・・・
と。
企業として必要な人材を本当に育てたいなら、イベント型の研修を見直したほうが良い。お金をドブに捨てているようなものだ。
イベント型の研修をたくさん用意するくらいなら、数を絞って、経験学習を促すようなフォローアップ機会を組み込んだ研修をやったほうが会社にとって有益だ。
*研修メニュー数の豊富さ
*研修実施回数の多さ
*従業員一人あたりの教育予算の多さ
が大切なのではない。本当に人材が学び、育つ場を用意することが大切だ。
繰り返すが、「事業は人なり」とか「人が育つ企業を目指す」と本気で考えるなら、イベント型の研修は見直したほうが良い。
2.「大人の学び」を信じていない?
研修を企画する側に以下のような意識がないだろうか。
- ベテラン社員、ミドル・シニア社員は、何をやっても学ばないだろう
- 中堅以降はバリバリ活躍しているので、育成など必要ない
こういった意識は、「大人の学び」や成長を信じていないと言えるのではないか。
**************
大体にして、人事や研修に携わっている人たちの学習意欲は高い。
そういった学習意欲の高い人からみると、現場の人(ミドル・シニア社員)は学ばない(学んでいない)ように思えてしまうのだろうか。
果たして実際は・・・・。
このブログの記事でも何度か出ているが、残念ながら、日本人ビジネスパーソンは他国のそれと比べて学習意欲が低いとされている。(→ 関連するサイトへ:パーソル総研)
確かに、(新入社員や若手社員を除いた)従業員から「もっと学習機会を用意してくれ!」なんて声があがっている企業の話は聞いたことがない。
**************
こうしてみると、研修を企画する側の意識と、従業員側の学習意欲の低さとの間には
研修企画側:学びの場なんて要りませんよね!!
従業員側 :はい、もちろん不要です!
という合意(共犯関係?)が成立している。
こんな状況なので、「人材が競争優位の源泉」とか「人が育つ企業を目指す」と宣言するには、越えねばならない高~いハードルが存在することを認識したい。
パラダイムの転換を
研修を企画する部門の人だけでなく、経営陣も含め、
何歳になっても人は学び、成長できる
ということを(実際にそうだと思うが)信じて、研修だけでなく制度も含めて、人材育成施策を考えたほうが良い。 ※ジョブ型人材マネジメントが進めば、潮流が多少は変わるかもしれないが。
従業員側も、
「もう年だから」とか「あと数年でアガリだから」といった思考を捨てて、
常に学びを楽しみ、組織や社会に貢献し続ける意欲を持ちたいものである。
**************
人的資本経営を謳うのであれば、関連情報を開示することが目的にならないように!
コメント欄