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人的資本経営:そこに戦略はあるんか?

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人的資本、人的資本経営という言葉が少しずつ広まってきている。

人事・HR領域だけの流行りではなく、日本経済や日本企業の持続的成長戦略として取り組んで行こうという機運になりつつある。

人を ”資本(Capital)” と捉えるという考え方が新鮮かと聞かれると、正直よく分からない。そんなことを考えたことがない。

有識者の話では、これまでの日本企業は、人を ”資源(Resource)” と捉えていたらしい。原材料とか機械と同じ扱いで、使えば価値が下がるもので、人をコストとして見ていたという。

そうなのか・・・。

企業は持続的な成長に向けて、関係するステークホルダー(投資家、顧客、従業員など)からの期待に応えねばならない。投資家の目線はESG(環境・社会・企業統治)にあり、顧客はイノベーションを期待し、従業員は働きがい(エンゲージメント)や働きやすさを求めている。

企業とすれば、期待に応えるべく、人(従業員)に関連した様々な施策を考えねばならないのだが、これまでの、人を ”資源” 扱いしていた時代の施策と、これからの ”資本” 扱いする時代の施策で、何が変わるのだろうか。

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経営戦略と人材戦略の連動性

経産省が出している「人材版伊藤レポート 2.0」では、人的資本経営への変革に向けて、まず「経営戦略と人材戦略を連動させるための取組」が掲げられている。

裏を返せば、これまでの日本企業の多くは経営戦略と人材戦略が連動していなかったということか。

本当にそうだとすれば、これまで我々がやってきていた様々な取組、たとえば採用活動、異動配置、人材育成、人事評価などは何のために、何を基準にやっていたのだろうか・・・。

「そこに愛はあるんか?」(某CMより)ではなく、「そこに経営戦略(や事業戦略)はあるんか?」である。

採用のための採用、異動のための異動、育成のための育成みたいなことをやってきていたのか・・・。

これからは、経営戦略や事業戦略を遂行するために、必要な人材を採用するために投資する、必要な人材をつくるために投資する、必要な人材がますますイキイキと活躍するために投資する。そして、そんな思考ができる人を採用・配置・育成するために投資する。

これが人的資本経営ということなのか?

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戦略遂行に必要な人材

経営戦略や事業戦略の遂行に必要な人材マネジメントをやっていくとなると、戦略に合わない(合わなくなった)人材は不要になるということ。そして、「この組織に居たければ、戦略に合うように変わってくれ」と指示し、変わらなければ ”お役御免” となる?

例えば、ある野球チームが「優勝のために、うちはスモールベースボールで行く」という新戦略を打ち出したとする。そうすると、このチームにホームランバッター・長距離バッターは要らないということになる。コツコツとランナーを貯め、1点ずつ取っていくために必要な選手を集め、育てる。

ホームランバッター達には「打ち方を変えてくれ」と指示を出し、変われなければ補欠になるか、解雇(他球団へ放出)かである。

これまでの日本企業でも、業績不振に伴う配置転換はあるのだが、今後はもっと頻繁に、厳しい出来事が起こるかもしれない。

「人材版伊藤レポート 2.0」の中で言われている ”学び直し” や ”リスキリング” は、日本や企業が持続的な成長を遂げられるために打ち出す戦略に沿った、付加価値を創出できる人材に変わってくれというメッセージと受け取れる。

付加価値を生み出せない(生み出せなくなりつつある)人材に「打ち方を変えて」ほしいのである。いま、多くの企業で「打ち方を変えて」もらうための投資を行っている。

これも人的資本経営か?

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DX人材の育成に関連した戦略がない?

上記した ”学び直し” や ”リスキリング” に関連するが、いま国を挙げて「DX人材の育成」に努めている。

”給料もらいすぎ世代” と見られがちな、ミドル・シニアをメインターゲットとして、「デジタル技術の習得」を推奨している。

IT関連企業であれば、デジタル技術が付加価値そのものだが、他の企業にとってはデジタル技術は付加価値を生みだす手段であって目的ではない。では、その目的はどうなっているか。

事業目的の一つに当たるビジョン(めざす未来像)を明確に打ち出せていないという企業が多いのではないだろうか。

上述した野球の例で言えば、「打ち方を変えろ!」とは言っているが、チームとして何を目指すのかが明示されていない状態である。よって、どんな打ち方に変えれば良いのか分からない状況だ。

本来、ビジョンがないと経営戦略・事業戦略は打ち出せないだろう。そうなると、デジタル技術も何のために必要なのかが不明確で、会社から「学び直せ!」とか「リスキリングだ!」と言われれも、言われた側は困るだろう。

よく耳にする、DXにまつわる「うまくいっていない」という話は、経営戦略と人材戦略が連動していない典型例なのではないか。

目的の見えない人的資本への投資は投資と言えるのか・・・。

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今日は、人的資本経営で言われている「経営戦略と人材戦略の連動」という点に関する私見でした。

「人材版伊藤レポート 2.0」に書かれた変革を一企業で遂行するとなると、大きな抵抗があるでしょうし、経営陣に相当の覚悟がないと実現不可能なのではないかと思います。

私は人材育成や組織開発を生業にしていますが、これまで以上に経営戦略を意識した活動を啓蒙し、微力ながら、クライアントの持続的な成長に貢献していこうと思います。