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結局はヒトによるよね ← これ、危険です

aerial photography of white and gray buildings 課長よもやま話
Photo by David McBee on Pexels.com
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「結局はヒトによるけどね」

私は仕事柄、組織や部下のマネジメントに関する研修を実施しているのですが、受講者(ミドルマネジャー)からこの言葉を結構耳にします。この場合の”ヒト”とは部下のことですが、この一言がとても気になります。

なぜかと言いますと、発言の様子を聞いていると、「ヒト(部下)による」を理由にして、学びを放棄しているのではないかと思われるからです。

私見ですが、この「ヒトによる」とか「ヒト次第」という言葉は、上手に学べない人が使いがちな”キラーワード”のひとつではないかと思っています。反対に、上手に学び、成長できる人はこの”キラーワード”をあまり使わない気がします。

今日は、「ヒトによる」で片付けていると勿体ないですよ、という話をします。

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まず、研修で学ぶ内容(概念、フレーム、スキル)には、大学や公的研究機関などのアカデミアが生み出した理論や、シンクタンクやコンサルティングファームの生み出した理論が多くあります。(名物経営者、名の知れた企業の人事役員などの話で語られるTipsは「理論」とは呼びませんね。それらは「持論」とか「しろうと理論」と呼ばれたりします)

このブログはミドルマネジャーの皆さんに向けたものですので、多くの場合、組織や部下のマネジメントに関する内容なのですが、関連する「理論」は、大学での専攻で言えば、主に経営学、その中でも組織行動論と呼ばれる科目の中で多くを学ぶことができます。

そもそも「理論」にはどのような価値があるのでしょうか。鈴木・服部(2019)は「組織行動論を学ぶ意義」として、予測と説明という2点で説明しています。

参考図書:鈴木竜太・服部泰宏 著『組織行動』有斐閣 2019年

著者
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1つめの予測としての意義とは、実際的な示唆を得たりアクションを起こしたりする上での助けになる(9ページ)

と言っています。つまり、こんな接し方をしたら、こんなリアクションが来るだろうと、相手の反応が予測できるということです。予測できれば、部下への対応が上手にできる確率はアップしそうですね。

そして、

著者
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もう一つの意義は、(中略)リーダーと部下の関係をはじめとする職場や組織での人間関係においては、相手が人間だけに予想通りにはいかないことが多くあります。組織行動論は、上述のように、予測の精度を上げることにも貢献しますが、それでも起こる予想外の結果を説明することにも貢献します(10ページ)

とも言っています。つまり、部下とのコミュニケーションがうまくいかなかったときに、なんだろう?どこかいけなかったのだろうか?と振り返る時にヒントが得られる、ということです。

※振り返りの価値や重要性に関するブログ記事も書いています!(→ 当該ブログ記事へ

予測のケースであっても、説明のケースであっても、部下マネジメントの質の向上に役立ちますね。それが「理論」の持つ意義であり、価値だと思います。

冒頭の話は、そういった「理論」を研修などで折角学んだにも関わらず、「ヒト(部下)によるよね」で片付けてしまうケースが多いではないかということです。この発言を補足すると、

あるマネジャー
あるマネジャー

所詮は「(机上の)理論」であって、その通りにいくケースは実際の現場ではほぼないよね~。結局は、部下個々のタイプや状況に合わせるしかないよねー

といった感じになるのではないでしょうか。この思考はとても勿体ないと思いますよ。

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坂爪・高村(2020)が「ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティの実現に取り組むには部下の1人ひとりにかかる管理監督、チーム内調整、部下育成など管理職にとって重要な業務である「人」に関わる業務が当然に増加する」と言っているように、現代のミドルマネジャーは「個に寄り添う」ことが求められています。

参考図書:坂爪洋美・高村静 著『管理職の役割』中央経済社(2020年)

それもあってか、部下のタイプに合わせて対応を変えるといった類いの内容、例えば「ソーシャルスタイル」と言われる手法の(古典的なハウツー)研修が今でもウケています。(ウケるからといって、学びが行動変容に繋がっているかどうかは別問題です)

部下一人ひとりに合わせた対応は、組織や部下のマネジメントに関する「理論」を押さえたうえでのアプリケーション、つまり「応用」の位置づけです。その辺りのことは、「ソーシャルスタイル」について詳しく書いているブログを読んでいただきたいです。(→当該ブログ記事へ

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部下とは仕事を通じた関係です。友人ではありませんので、仲良くなることが目的ではありませんね。部下に寄り添うことが目的ではなく、組織目的を達成するために寄り添うわけです。

組織目的を達成するために有効とされる「理論」を学んでいるのであれば、まずはそれらをしっかりと習得して、そのあとに「個への対応方法」、つまり「ヒトによる」の部分の考えてみるというのが、マネジメントとして考えることの順序ではないかと思いますよ。

応援団長
応援団長

「ヒトによるよね」とか「部下次第だね」と安易に結論付けたりせず、何がポイントなのか、どこか普遍的な要素なのかという点を考え、押さえる習慣が重要です。