「人材育成・組織開発を考える部屋」にもお立ち寄りください!

再掲:部長は ”枠” をつくる人

部長さんのための部屋
この記事は約6分で読めます。

ほぼ1年前のブログの再掲です。部長の役割に関する記事です。読みやすさを一部踏まえ、手直ししました。

*************

以前のブログで、部長と課長の役割の違いについて書きました。(該当ブログへ

ブログの中で、書籍(伊丹敬之 著『経営を見る眼』東洋経済 2007年) で書かれている、マクロ/ミクロのマネジメントという分類を紹介しました。

著者である伊丹先生は、

組織の階層が上がっていくに従って、ミクロだけのマネジメントからマクロマネジメント中心のマネジメントへと転換が求められる

とおっしゃっています。今回は、その「マクロのマネジメント」についての話です。

上記書籍の中で、

マクロのマネジメントとは、仕事の「枠づくり」のマネジメントである

として、以下の 5つの ”枠” が紹介されています。

1.事業の枠(戦略)
2.仕組みの枠(経営システム)
3.プロセスの枠(場)
4.人の枠(人事)
5.思考の枠(経営理念)

応援団長
応援団長

”枠” を決めることは本当に重要だと思いますよ。すべてに関して「ご自由にどうぞ!」と言われるとかえって動きづらくありませんか?。一定の枠の中で「ご自由にどうぞ!」と言われるほうが動きやすい。そして、資源配分や業務効率の面でも好影響だと思います。

なお伊丹先生は、この枠づくりを部長職に限定して述べてはおられませんが、部長の役割を整理するのに便利な枠(フレーム)ですので、私の意見も入れながら紹介していきます。

部長の役割

1.事業の枠(戦略) をつくる

これは、上位組織(会社や事業部)の戦略を受けて、自部の戦略を策定することです。

上位組織の掲げるビジョン・目標を達成するために、部として 何に注力するのか/しないのか を考える。資源(ヒト・モノ・お金・情報)の配分を決めます。

私はこれまでに、様々な会社の部長クラスの皆さんに自部の戦略を教えてもらったことがありますが、その経験から、注意したほうが良いと思われる点が2つあります。

注意1.ビジョンや中期目標を意識した戦略になっているかどうか
ビジョンや中期的な目標がない状態で戦略を謳っている場合があります。戦略は目先の業績・成果をあげるためのものではないはずです。

注意2.「やれることは全てやる」的なものになっていないかどうか
内部資源をどう配分するか、どこをターゲットにして攻めるかなど、戦略はメリハリが語られるものです。「なんでもやります」という戦略?がもたらす結果は「すべて半端に終わりました」になりがちです。

*************

2.仕組みの枠(経営システム) をつくる

戦略が決まれば、資源効率と効果の最大化を考えて、誰(どこ)にどういう役割・責任を委ねるかを決め、事がうまく回るような仕掛け、仕組みを用意すること、つまり組織・管理体制づくりと役割分担のことです。

マネジメントとは ”複雑性への対処” と言われることがあります。つまり、仕組みを整え、上司にいちいち伺いを立てなくても事が進む状態を作ること。上司に相談するのは非常時対応のみ。これがマネジメントが機能している理想の姿です。

応援団長
応援団長

『戦略と実行』という本の中で、「(業界が同じであれば)どこの組織も似たような戦略を打ち出している。差を生んでいるのは、その戦略を実行しているかどうかの違い」と書いてある。戦略の実行管理体制(仕組み)は競合他社との差別化要因と言えますね。

清水勝彦 著『戦略と実行』日経BP 2011年

*************

3.プロセスの枠(場)をつくる

戦略を実行するうえで、部内の誰と誰が交流することで、相乗効果や補完関係が生まそうかを考え、そういった場(リアル、デジタル空間)を用意すること。

応援団長
応援団長

仕組みの枠は「(組織の)タテの影響」を健全にする、プロセスの枠は「ヨコの影響」を潤滑にすると言えそうです。そのプロデューサーおよびコーディネーターが部長の役割ということ。

*************

4.人の枠(人事)をつくる

いわゆる ”人事” のこと。上記1~3で決めたことをやり切るのに、誰に委任するか。具体的には、誰を課長にするかを決めること。

戦略の実行にとって課長の存在はものすごく大きいですよね。部長の考えた ”枠” が機能するかどうかは課長次第といってもいいと思います

世の中の多くの課長は、優秀なプレイヤーであった人たち。しかし、優秀なプレイヤーが優秀な課長であるとは限りませんね。優秀過ぎて部下をつぶしてしまう課長もいます。

応援団長
応援団長

部長が課長を見定めるとき、短期的な業績だけに目を奪われないこと。中・長期的な視点を持っているか/持つ素地がありそうかを見極め、そういった視点を育成することですね。

*************

5.思考の枠(経営理念)をつくる

経営理念(ミッション、パーパス)や行動指針(バリュー)を部内に浸透させること。

ほぼ全ての会社に理念はあると思います。ですが、浸透している会社は多くないのでしょうか。

マネジャー研修で会う人たちからは「理念ですか。それにどれだけの意味あるんですかね?」と言われることもあります。

応援団長
応援団長

私はこう言います。「意味がなければわざわざ掲げないはずですよ。そして、働くことが多様化する時代、理念はますます重要になってきますよ」と。

そう考える理由を2つあります。

理由1)多様化への対応

現在、「はたらく」が多様化してきています(場所、時間、副業、アルムナイなど)。この動向は会社や組織にとっては遠心力と例えられます。多様性が進むと会社や組織の一体感が減退し、組織としての力は低下するかもしれません。

これを避けるためには求心力、いわば組織への惹きつけが必要となります。「この会社・組織で働きたい」という惹きつけ、そのひとつの要素に理念があります。

本来、全ての会社は社会に貢献してるはずですよね。必ず誰かの何かに役立っています。それを表現しているのが理念です。

この会社・組織はこのために存在しているのだ!という存在意義を部下にちゃんと伝え、彼/彼女らの共感を得ること。マネジメントにおいて大切です。

理由2)働きがい、エンゲージメントの向上

昔と違い、いまどきの人はお金や地位のためだけに働かない時代です。私は、仕事で大学生と接していますが、彼/彼女らへの印象はまさにそんな感じです。彼/彼女らは自己成長や働きがい、社会貢献を働くことに求めています。(お金が重要でないとは言いません)

シニア層と言われている人たちだって、”働かないおじさん” とレッテルを貼られていますけど、そういった人たちだって、きっと誰かの役に立ちたいと思っています。

応援団長
応援団長

お金だけでは動機づけが難しい時代です。若者やシニアへの動機づけとして、理念を日々のマネジメントに活用し、組織を束ねること。

まとめ

本日は、部長は「ミクロのマネジメント」=「メンバー個々とのコミュニケーションを通して組織運営する」人ではないというお話でした。

部長は、「マクロのマネジメント」をやる人。組織の(短期的でなく)中長期的な成長・発展を支えるキーパーソンです。

**************

参考書籍:伊丹敬之 著『経営を見る眼』東洋経済 2007年