前職時代、クライアント先のある部門でファシリテーターを担っていました。
その集まりは、部長と課長が集まり、自部門のエンゲージメントサーベイの結果をもとに部門課題を検討し、どのような解決策を用意するのかを話し合うものだったのですが、部長からこんな意見が出ました。
SさんとTさんの相性が良くないんだったら、Sさんを隣の課に異動させてはどうだろうか。代わりにRさんをこちらの課に異動させたらうまくいくんじゃないか。
また、ある課長からこんな意見が出ました。
うちの課のHさんには、先々のことを考えて別の経験も積んでほしいから、今度の_月に____へ異動させたいのですが・・・。
これらの意見を、皆さんはどう思われるでしょうか?
従業員の「配置」を考えることは、企業価値や組織成果をあげるための組織・人材マネジメント上の手段ですので、特段違和感を抱かないという方も結構いらっしゃると思います。企業価値や組織成果という観点だけでなく、当該社員のモチベーションや成長を考慮しての判断というケースもありますね。
「配置」はこれまでもこれからも重要な組織・人材マネジメント上の手段であることに変わりはないのですが、少し先のことを考えますと、これまでのような思考ではうまくいかなくなるかもしれません。
今回はその点について書いていきます。
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① キャリアの自己選択意識
前々回のブログで、社員のモチベーションやWell-being(心理的・身体的・社会的な健康)を高めるためには、今後ますます、自らの仕事や役割を自ら選んでいる(自己選択している)という感覚を持たせることが重要だと書きました。
会社の都合で「配置された/異動させられた」という感覚を社員が持っているのは決してヘルシーな状態ではないのです。
社命による異動が当たり前の時代から、少しずつ違う世界になってきていることを現代のマネジャーは注意しておいたほうがいいですね。
冒頭の部長・課長のアイデアを実行したとすると、Sさん、Rさん、Hさん、いずれも「会社都合で異動させられた」と捉えますね。
マネジャーは言葉を慎重に選んで、異動や配置転換の主旨をSさん、Rさん、Hさんに伝えると思いますが、いずれにしても彼/彼女らの”会社都合の感覚”を払拭することは難しいと思います。
キャリア意識が高いとされる若者世代は、マネジャーからの説明に説得力がないようだとスパッと辞めてしまうかもしれません。たとえ大企業であってもそこに容赦はないかもしれません。
社員同士のコミュニケーション上の課題を配置替えで解決していた時代・・・、とにかく色々な部署を経験させることで部下の成長を支援していた時代・・・、そんな時代が消えていくかもしれません。
そう考えると、マネジャーとして活躍し続けるためには、DEIマネジメント、チームビルディング、自己理解/他者理解の促進などへの対応がますます重要なコンピテンシーになってきそうです。
このあたりは、AIでなんとかできる問題ではないと思います。マネジャーとして、日々の経験学習や、能動的な知識やスキルの習得が必要な領域なのではないでしょうか。
② 「差し手意識」 「コマ意識」
2つ目に考えたいのは、部下の意識の変化です。
名古屋商科大学ビジネススクールの名誉教授であられる高木晴夫先生によりますと、ご著書の中で、部下の持っている2種類の意識(差し手意識・コマ意識)を以下のように説明されています。
差し手意識:
自分の仕事は、自分が主体性を持って進めており、仕事、すなわちコマ(仕事)を動かす差し手が自分である、という意識
コマ意識:
自分は仕事に振り回されているコマに過ぎず、主体性が持てずに仕事をしている、という意識
そして、高木先生はこのようにもおっしゃっています。
マネジャーは、
日々の会話や仕事に対する態度から、部下の意識が「コマ」か「差し手」かを見極めよ
と。その上で、部下を上手にマネジメントしましょうと。
参考図書:高木晴夫 著 『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ』かんき出版(2020)
注意したいのは、これまでの時代における部下の持つ「差し手意識」は、社命により与えられた仕事や役割に対してのものであり、自らのキャリアに対してのものではないということです。
いま、国も企業も、働く人々に「自らのキャリアにオーナーシップを持つ」ようにと働きかけています。このような現状を踏まえますと、上記の各意識は以下のように書き換えられそうです。
New 差し手意識:
自分のキャリア形成は、自分が主体性を持って進めており、どこ(の将棋盤)で活躍するかどうかを決めるのは自分である、という意識
New コマ意識:
自分は、どこか(の将棋盤)で、差し手(会社・マネジャー)の意思に従ってキャリアを歩むだけの存在、という意識
少しずつではありますが、若い人たちを中心に「New 差し手意識」の人たちが増えてきていると言われています。
以前は「会社・マネジャーが棋士、部下はコマ」であり、コマが勝手に他の将棋盤に移っていくことなど考えなくても良かったのですが、そのような世界観が今は徐々に変化してきています。
そう考えると、マネジャーは、
① 将棋盤(職場環境)を常に良い状態に整備しておく
② 優秀なコマ(部下)をスカウトするため、魅力的な役割を用意し、引き込み、勝てる陣形を作る
③ 各コマがよそ見をせず、最高のパフォーマンスを発揮しつづけるように観察し、声をかける
④ パフォーマンスを適切に評価し、次局・次々局で担いたい役割を聴き、できるだけそれに応え、他の将棋盤へ行ってしまわないようにする
※ 期待した役割が担えないコマは他の盤に移ってもらうか、役割を下げる
必要があります。
今いる将棋盤上からいつでも離れることが選択できるコマを、自分の将棋盤上で活躍し続けてもらえるかどうか・・・。マネジャーには ”コマを惹きつけ続ける力” が求められますね。
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今日は「配置」に関する話でした。
モチベーションや成長に影響を与え、人材育成の機能を担っていた「配置」のありようが変わってきています。さて、どうしましょうか。
環境変化の激しい現在、以前のような人材育成方法(例:社内事情に詳しいジェネラリストの養成)は時代遅れかもしれませんので、「配置」の果たしてきた機能をそのまま代替するようなことを考えること自体、ナンセンスなのかもしれません。
「配置」で組織や人材に関する問題解決を図ろうとする思考、どう変えていきましょうか。
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