前回の記事で、ビジョンについてあれこれ書いた。(前回記事)
ここで、ビジョン・理念に関して、こんな疑問を持っている人はいないだろうか。
ビジョンや理念なんて、部下の誰も意識していないよ。マネジメントに必要なのか?
必要です。
これが私の回答。
これまでは、ビジョンや理念を誰も意識しなくても、組織として何とかやってこられた。
今はだいぶ変わってきているが、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった風習のもとでは、学校を出て、最初に入った会社から飛び出ることを真剣に考えたことのない人が(伝統的な企業では特に)結構いる。
”この会社に居続ける理由” を特に考えないまま、不平不満を言いながらも働き続け、定年を迎える。
また、海外と異なり、日本のように、ほぼ日本人だけで働いている環境下では、”阿吽の呼吸” が重宝される。同じメンタリティを持った集団なので、「言わなくてもわかるだろう」がまかり通ってしまう。
なので、自分や周囲の人のやっていることや発言に疑問を持つことが少ない。なぜこうなのか(Why)を考えない。何をやるか(What)やどのようにやるか(How)に意識や関心がいってしまう。
なので、多くの従業員は、自分たちの存在意義(理念)への意識を持つことなく、目指す姿(ビジョン)にも関心を持つことなく、あたえられた仕事を粛々とこなして過ごしてきたのだ。
これからの時代はどうか。
中途採用は今やどこの会社でもやっている。異なる文化や価値観で育った、ユニークで、尖った人材が組織に加わることで、”自分のたちにとっての当たり前” が揺さぶられることが生じる。
世間には転職にまつわる情報が氾濫しており、良さそうな会社に関する情報が簡単に手に入る。キャリア意識の高い、若くて優秀な社員は、そういった情報に惹かれ、そっちへ行ってしまう。
また、日本の労働人口の減少に伴い、我々の価値観の通用しない、外国人労働者の力が必要になってきている。
国内市場の縮小化に伴い、組織の成長・発展を求める企業は、海外進出を図り、海外のブランチや工場で外国人労働者を雇用し、同志として仲間に育てていく必要もある。
こういった一連の動向をみると、これまでのような、”阿吽の呼吸”や、「言わなくてもわかるだろう」に頼ったマネジメントが通用しなくなるのは火を見るよりも明らかだ。
このように現代は、自分たちは何者なのかという存在理由(理念)を考える場面が出てきており、優秀な人材を惹きつけたり、居続けてもらうための魅力をビジョンや理念として提示することが必要になってきている。
更には、社会的に「多様性を大切にしよう」という風潮がある。経営としても、年齢やジェンダー、価値観、人種、国籍などの ”違い” を経営に活かしたいと考えている。それは・・・
多様性豊かな組織のほうが、画一的な組織よりパフォーマンスが高いことが明らかにされているからである。
(マシュー・サイド 著『多様性の科学』ディスカヴァー 2021年)
多様な人材を束ねるには、マネジメントに軸(判断軸)となる要素がなければならない。
以前のブログでも書いたが、多様性は組織にとって ”遠心力” になる。つまり、組織をバラバラにする力を持っている。(関連ブログ:職場づくりに軸が必要)
多様性を大切にするからこそ、組織を束ねるために遠心力に抗う力(求心力)が必要なのである。それをここではマネジメントの「軸」と言っている。
共通の目指すところ(ビジョン)や、国や言葉、人種、価値観などが異なっていても、共に働く理由(理念)が「軸」に該当する。 ※行動指針(バリュー)も「軸」といえる。
長くなったが、だからこれからの時代は、マネジメントにビジョンや理念が必要なのである。
ビジョンや理念は会社が掲げているからいいじゃないか。我々マネジャーが考える必要があるのか?
これまで、ビジョンや理念を誰も意識しなかった理由の1つはそこにある。
改めて、自社のビジョンや理念を眺めてほしい。
素敵なステートメントになっていると思うが、いかんせん表現が壮大で、従業員にとっては、自分の業務とどう関係するのかが理解しづらいのではないか。
ここで、マネジャーの出番である。
会社に掲げるビジョン・理念に紐づけて、自部門のビジョン・理念を打ち出し、メンバーに伝えるのである。
自分たちの目指すところ(ビジョン)、自分たちの存在意義(理念)をメンバーに示し、自分たちの日々の仕事は(大変だけれども)価値のあるもの、重要なものと捉えられるように仕向けるのである。
短期的な目標で発破をかけたり、1on1などで雑談したりなどして、部下を動機づけるだけでなく、組織の将来(ビジョン)を語ったり、自分たちの存在意義や存在価値(理念)を語ることで、部下をモチベートし、生産性の向上や成果につなげることもマネジャーの役割である。
数字だけでマネジメントする時代から卒業する必要がある。
ビジョン、理念、ぜひ押さえておきたいマネジメントの要素である。
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