マネジャーには、部下に対してコーチングできるようになってもらいたい
マネジャーに対する期待として、このコメントをもらうことがある。
1990年代後半から、人材育成業界で ”コーチング” という言葉が聞かれるようになって20数年。マネジャー向けの研修としても、コーチング研修はすっかり定番化している。
では、ビジネスの現場でコーチングが実践されているかというと、人材育成担当者の口からは
「いいえ」
という言葉が出てくる。
突っ込んで話を聞いてみると、
- うちのマネジャーは、「私の言うとおりにやりなさい」といった感じの指導になっている
- うちのマネジャーは、部下の話を聞くことが少なく、ほぼ一方的な指示を出している
- うちのマネジャーは、部下の話を聞いているようで実は聞いていない。部下に一応発言させてから、結局は自分の主張をしている
といった言葉が出てくる。
ここで、コーチングの定義を押さえておこう。
コーチングとは、対話を重ねることを通して、クライアントが目標達成に必要な知識、考え方を備え、行動することを支援するプロセスである。
出典:コーチ・エィ著 鈴木義之 監修『新版 コーチングの基本』日本実業出版社 2019年
クライアントと言う言葉は「部下」と考えればOK。
この定義を読む限り、上記した人材育成担当者のコメントからは、現場の課長は、
1.部下と対話をしていない(一方的な指示・指導になっている)
2.最終的に、部下とのやりとりで、部下の行動支援につなげられていない
という姿が想像できる。
なぜコーチングが実践されないのか・・・。
部下の話を聴けない
管理者研修などでお会いするマネジャーの傾向を見ていると、部下の話を聴けないマネジャーは結構いると思われる。
”聴けない” にもいくつかの種類があるだろう。
- ずーっと一人で話をしている、単に話好きなマネジャー(ごく一部にいる)
- 課の目標達成のためには、自分の考えるやり方が最も確実と信じている指示型マネジャー(まあまあいる)
- 黙ってしまうと、部下が何を言ってくるか不安で、ついつい間を埋めてしまうマネジャー(結構いるだろう)
- 部下に質問を振って話を聴くが、それは形式的であって、最終的には自分に言いたいことを言って終わるやりとりを終えるマネジャー(結構いる)
いずれの例も、コーチングの定義にある ”対話” にはなっていない。3つ目の例を含めて、One wayコミュニケーションである。
上司が一方的に話している、この状態は部下にとっては不幸なのだろうか。実は意外とそうでもない、むしろラッキー♪ と思っている可能性がある。
マネジャーから「自分で考えろ!」と言われないので、自分でアイデアを懸命に考える負荷がない。マネジャーの言った通りのことをやって、仮に失敗しても「言われたことをやっただけです」と言えば、それ以上責任追及をされない。ラッキーである。
部下側から「たまには私の意見を聴いてくださいよ!」なんて言葉が出てくることもない・・・。
こういった状況だからこその ”コーチング” なのだが、一見するとコミュニケーションが成り立ってみえるので、従来のマネジメントスタイルが継続され、コーチングは実践されない。
コーチングとは優しい接し方か
コーチングと比較される言葉として、”ティーチング” と言われる接し方がある。teaching、つまり「教える」ということだ。上司から部下に知識やスキルなどを教えるのである。
上記した、コーチングの定義に則れば、ティーチングはコーチングの一部とも言えそうだが、世の中の多くのマネジャーは、
ティーチング=指示命令型、コーチング=質問型 の部下との接し方
といった印象を持っていそうである。(決して間違ってはいないが・・・)
マネジャー研修で、コーチングに関して触れると、一部の参加者からこんな声があがる。
質問か。「どう思う?」とか「君はどうしたい?」とか、なんだか甘っちょろい接し方ですね。優し過ぎません?
本当にそうだろうか。私は反対意見である。
コーチングは部下を支援するための手法である。あくまでも主役は部下。
マネジャーの質問により、部下自身に考えさせ、決める支援をし、行動に移させる。そして、行動とその結果に主体性と責任を持たせる。(もちろん、最終責任は上司が取る)
マネジャーの指示通りに動いて、失敗しても自分の責任を感じないような状況より余程シビアだ。
もし、【コーチング=甘い接し方=そんなんじゃあ成果が出せない/部下が成長しない】という考えがマネジャーの中にあるのであれば、研修をいくらやってもコーチングは実践されない。
※ 人は、他人から言われたことより、自分で考え、決めたことのほうに主体性も責任感も抱くものであるということが忘れ去られている。
飼いならされた私たち
コーチングが実践されない現状につき、理由はマネジャー側だけではない。部下側にもある。
子供のころから大人にやり方を教えてもらい、テストの答えを当てようとしてきた我々にとって、答えのない問題に対して、自らで考え、答えを探したり、自ら創ったりすることに慣れていない。
社会人になり、上意下達、指示命令の文化をもった会社で何年も過ごしていると、更に自分で考えることができなくなってくる。
コーチング研修を学んできた上司が、それまでの態度から激変し、「どう思う?」「君はどうしたの?」と、ある日の面談で聞いてきたら部下はどう思うだろうか?
- なんか気持ち悪っ!
- は~ん・・・研修で何か学んできたなぁ。どうせ一過性の台風だろう
- 何を言えば正解なんだ?上司は何を考えているんだろう?
部下がこんな状況ではまともなコーチングにはなりづらい。そして、この状況が続くことで、マネジャー側は「コーチングなんて使えねえ」と結論づけ、研修はなかったも同然となる。
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実践が難しいものに関するノウハウ本はたくさんの種類がある。裏を返せば、実践が容易なノウハウは本にもならないか、なったとしても種類は多くない。
ティーチングに関する本は(ビジネス本としては)あまりない。コーチングに関する本はたくさんある。コーチングの実践は簡単ではない。
では、どうすれば実践できるのか。次回のブログで書く。(→ 次回へ)
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