カイジとは、マンガの主人公ではなく「開示」のこと。
世の趨勢として、情報は隠さずに「開示」する方向にある。
先日読んで、このブログにも感想を載せた本『最軽量のマネジメント』でも、マネジャーの仕事を楽にするのは情報を部下に「開示」することだと言っていた。
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経営の世界でも「開示」が求められている。
企業の財務情報に関する情報の開示は以前からあるが、近年では、企業と社会の持続的成長を可能とする人的資本に関連する取組のような非財務情報を社内で共有し、社外へ開示しなさいという方向に風が吹いている。
※ 人的資本経営とは(→ 経産省の関連サイトへ)
国際標準化機構が2018年に提示したISO30414によると、人的資本の内容は、
*ダイバーシティ
*リーダーシップ
*組織文化
*採用・流動化・離職率
*スキルと能力
*サクセッションプラン などなど
これらの情報を社外に開示しなさい、ということらしい。
これらの情報を開示することで、ステークホルダーや投資家からの信頼獲得や、企業のレピュテーション向上、優秀な人材の獲得などにつながることを期待しているのであろうから、経営者は人事部門にますます様々な要求や期待をかけてくるだろう。(大手企業では既に動いている)
今回読んだ本は、そんな潮流を踏まえ、日本の人事部はどうあるべきか、何をすべきかを考えるヒントが書かれている。
以下は私の感想。
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① 取締役のスキルマトリクス
ジェンダーのダイバーシティだけでなく取締役のスキルのダイバーシティも求めている。これにより取締役のスキルマトリクスを作成する企業もでてきている。(62ページ)
サステナビリティにとって、ダイバーシティは欠かせない要素らしい。
それは、表層的なもの(年齢、ジェンダー、国籍、職歴など)だけでなく、深層的なもの(態度、価値観、知識、スキル、経験など)も、である。
※ 深層的なもののほうが企業のパフォーマンスに影響を与えている。(79ページ)
企業をリードする取締役の面々にも、当然ダイバーシティが求められる。
それぞれの取締役がどのようなスキルを有しているのか、スキルの多様性は担保されているのか。
そういった情報を開示する企業が増えている。
開示している企業によって、マトリクスの項目は異なっている。個人的には「マネジメント」という項目に注目している。特に人材マネジメントについて。
ある会社の取締役スキルマトリクスをみると、人材マネジメントの項目は全役員に「〇(該当あり)」が付いている。
これは ”ピープルマネジメントの経験あり” ということを指しているのか、それ以上のことを指しているのかは分からない。とても興味深い。
マトリクス内に、”マネジメント” という言葉を掲げていない企業もある。(専門領域・職能のみ)
役員はマネジメント職なので、当然の前提としてイチイチ掲げる必要はないという判断か。
いずれにせよ、取締役スキルのマトリクス化の流れで、”マネジメント職” が専門職であるということを世間が意識する流れになるのかどうか、ウォッチだ。
② ダイバーシティの4つの次元
帰属意識(が高い/低い)という軸と、個性の発揮(を重視/軽視)という軸。
この2軸で作られたマトリクス(2×2)により、ダイバーシティを分類している。(97ページ)
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という場合のインクルージョンってそういう意味だったのね。
インクルージョンとは、
組織のインサイダーとして扱われると同時に、個性を発揮することを期待される
こと。
出る杭は打たれる、という言葉。
最近、大谷翔平選手の影響でMLBを見ることが増えたのだが、野球に詳しいわけではないが、選手の構えや動きを見ていると、各選手の個性を活かしているんだろうなあと感じる場面が多い。
4つの次元の中に、アシミレーション(同化)というものがある。
アシミレーションとは、
個性を捨て、組織の規範に従えば、組織のインサイダーとして扱われる
【高い帰属意識】×【個性を軽視】
こと。
少し前のブログ記事で「組織になじむ」ことを書いた(→関連記事へ)が、新しく組織に加入してきた人を組織になじませるのは、組織にとっても本人にとっても大切なことなのだが、過剰になじませて、その人の個性を失わせるようなことになってはインクルージョンになっていないということか。
組織になじませるプロセスを描く際には、個性を伸ばす/活かすという観点を持ちながら施策を考える必要がある。
新入社員のような、純粋無垢な、素直に何でも吸収してしまうような相手であれば特に注意。
③ 組織資本
競争優位を実現するためには、社員のスキルや行動に焦点をあてるだけでは十分でなく、組織が有する知識のストック・フロー両面に関するより詳細な分析が必要である。そして組織知の分析には連動させた社員のスキル向上によって企業が有する知的資本のストックは拡大するものと捉える。(148ページ)
人事部門としては、個々の従業員がもっている知識やスキル(人的資本)だけに目を向けるのではなく、組織の有している資本(組織内のプロセスやルーティン:本の中では社会資本、組織資本と言っている)を時代に合わせて刷新することにも重要な役割だと言っている。
社会資本や組織資本を刷新するためには、組織開発の取組が必要だ。(→組織開発に触れた記事)
ちなみに、①で書いた取締役スキルマトリクスの項目に「組織開発」を掲げている会社は(各社のサイトをざっと見たところ)ない。
それくらい、組織開発は国内ではまだ浸透していないテーマである。人事部門が組織開発をリードできる存在になれば、この本のタイトルである ”戦略人事” として、経営に対するプレゼンスが増すだろう。
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今回紹介した本は、現場のマネジャーが読む内容ではないかもしれないが、これからの経営の潮流(特に人事部門の在り方)を知るには面白い本だと思う。
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