コロナ禍になって3年が経過しました。
”リモートワーク” という言葉が日常会話で盛り上がるテーマにならないほど当たり前のことのようになった現在、リモートワークに関連した組織マネジメント上の問題は以前ほど注目されることが減ってきた気がします。
現場のマネジャーの皆さんはどう感じているのでしょうか。リモートワーク下でのマネジメントに慣れてきて、組織マネジメントを行う上での問題が潜在化してしまった感じはありませんか?
コロナとの戦いはいつ終わるのかわかりませんが、仮に区切りがついたとしても、コロナ前のような働き方に完全に戻ることはないでしょう。
そうなると、我々ミドルマネジャーは、リモートワークという働き方を前提に、上手に組織マネジメントをしていかねばなりませんね。
少しでも効果的な組織マネジメントをやろうと思ったら、科学的根拠はあったほうがいいですね。
科学的根拠があれば、
*部下やチームに対して行う働きかけの効果性を高めることができる
*自分のマネジメントを振り返るときの判断軸になるので、次にはもっと効果的なことができる
経験と勘だけでマネジメントをやっていると早晩限界が来ると思いますし、ミドルマネジャーにとって受難とも言える今の時代において、科学的根拠は大きな武器になるはずです。
そこで、今回ご紹介する本はこちら。
高橋・加藤 編著『リモートワークを科学するⅠ 調査分析編』白桃書房(2022年)
大学の先生、シンクタンクの研究員が各章を担当され、リモートワークにまつわる研究の成果を分かりやすく書いておられます。(統計的な記述はなるべく容易に)
全8章、すべて興味深い内容でした。以下は私の感想です。
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リモートワーク下、部下からの信頼を得るためのヒント
リモートワーク下、部下との間でコロナ前のようなコミュニケーションを図れない中で、いかに信頼関係を構築していくかは深刻かつ重要な課題である。
本の第4章では、部下が思う「上司への信頼」に対して、上司のどのようなマネジメント行動が効果的か(有意に効果をもつか)を定量的に分析している。
その結果、効果的なマネジメント行動は、
*上司マネジメントの短期化・具体化
*チーム連携の活性化
らしい。
リモートワークになり、上司による業務遂行方法への指示が以前より具体的になったとか、上司の進捗管理のスパンが短くなったとかということが、上司への信頼につながっているらしい。
この結果を読むと、なんだかマイクロマネジメントになっているように聞こえて、信頼関係構築には逆効果な気がするのだが、きっと指示や進捗管理のやり方に工夫があるのだろう。
このデータは、2021年1~2月に取得したものらしいので、2年が経過した現在、やり方のまずい上司(マイクロマネジャー)は今頃信頼を失っているのかもしれない。
もうひとつの分析結果、リモートワークになり、チームメンバーとの進捗共有の回数が増えたことが、上司への信頼につながるという点。
これは、チームメンバーどうしの共有機会を上司がコーディネーションしたり、そういった機会でのファシリテーションを上司が担って有益な場になっていたりすれば、上司への信頼は増すだろうなと感じる。
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上司が思っているほど、部下は思っていない
本の第5章では、リモートワーク下の職場コミュニケーションに関して分析している。
一般社員の回答を分析すると、
上司と部下のコミュニケーション頻度は、上司への信頼との間に有意な関係性は認められなかった
ようだ。
一方で、管理職の回答を分析してみると、
上司と部下のコミュニケーション頻度は、管理職としての自分の仕事がうまくいっているという感覚を生む(実際以上に高く見積もる)
ようだ。
コミュニケーションの量が多ければ、十分にコミュニケーションができていると認識する傾向は、管理者に特徴的である。部下の側では、会話の量が多くても、十分なコミュニケーションがとられているという認識にはならない。(157ページ)
この傾向はコロナ前でも同じだと思うのだが、teamsなどのテレビ会議システムで1on1ミーティングなどを行うことが増えた現在、上司側がこれまでの以上に(一方的に?)話している可能性を感じる。
オンラインでのコミュニケーションはリアルでのもの以上に、間(ま)や沈黙を埋めようとする傾向が強い気がする。
では、どうやって部下の発言量を増やせばいいのか。
傾聴だの共感だの、テクニック論に行きがちなのだが、個人的にはまずは部下に興味や関心を持つことではないかと思う。想像力を働かせて、(リモートワークで働いているこの)部下はいまどんな状況にあって、何を考えているのか、何を感じているのかを考えてみること。
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マネジメントで生産性は高められない?
リモートワークに関する議論では「生産性」が取り上げられる。
リモートワークで生産性は高まっているのかどうか。弊社でも以前に調査している(→ 関連サイトへ)。
本の第1章で述べられているが、
上司の働きかけは、部下の生産性にあまり奏功しない
ようだ。
上司がビジョンを語ることも、部下に配慮することも、部下の生産性には有意な効果を示していない。(42ページ)
では、部下の生産性にとって何が有効なのかというと「ジョブクラフティング」らしい。(→ 「日本の人事部」さんのサイトへ ジョブクラフティングの説明)
簡単に言えば、部下本人が主体的に仕事をつくりあげていくこと。
部下が主体的に仕事をつくり上げていくことができるなら、組織マネジメントがどれだけ楽になるのやら。
私見だが、そのような部下は多くはないだろう。なので、マネジャーとしては、部下が主体的に仕事に取り組めるように支援ないしはコミュニケートしなくてはならない。
なお、部下が主体的に仕事に取り組むことを支援するマネジメント行動は、”キャリア自律” を推進している現在のビジネス環境では必須とも言える要素なのだが、この調査ではそういった要素が含まれていない。
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今日は、リモートワーク下でのマネジメントに関する本を読んでの感想でした。
私も(部下も)リモートワークをやっていますので、いくつかの示唆をもらえる内容でした。
この本には、事例編もあるようです。おもしろそうです。
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