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まず聞く

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今に始まった話ではないが、”傾聴” の大切さは、ビジネス社会に限らず、至るところで言われている。

ミドルマネジャーの皆さんにとって「部下の話を傾聴しましょう!」というメッセージは、これまでに必ずと言っていいほど聞いたことのある言葉ではないだろうか。

最近で言えば、1on1ミーティング、キャリア面談、コーチングといった、部下とのコミュニケーション時の必須スキルとして、傾聴のスキルは研修や書籍などでよく紹介されている。

本屋さんをのぞくと、傾聴に関する本はたくさん並んでいる。世の中には、傾聴に関して悩んでいる人、うまく傾聴できないと思っている人、「傾聴できない人が多いな~」と思っている人がそれだけ多くいるのだろう。

そんな中で、おもしろいタイトルの本を見つけたので読んでみた。

東畑開人 著 『聞く技術 聞いてもらう技術』ちくま新書, 2022年

著者は臨床心理士。専門は、臨床心理学・精神分析・医療人類学。

「聞いてもらう技術」ってなんだ?と思ったが、紹介されている技術自体は「ふ~ん」という言葉も出ないくらいのものだった(著者自身も小手先の技術と言っている)が、それ以外の内容で考えさせられることが幾つかあった。

以下は私の感想。

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聞けない理由は孤立感?

なぜ他人の話を聞けないのかについて、著者は ”孤立” という視点から話を展開している。

メンタルヘルスの本質って、結局のところ「つながり」なんですね。・・・(中略)・・・孤立は健康に悪い。(96ページ)

本当にひとりぼっちのときには、心の個室はもてず、まわりにつながりがたくさんあるときにのみ、個室が可能になります。なにかが守ってくれているから、個室が可能になります。(115ページ)

部下の文句を受け止めるには、マネジャー自身がほかに善きつながりを持っている必要がある

う~ん。話は理解できる。でも、なんだかしっくりこない。

マネジャーが部下の話を聞けない主な場面とは、

*自分の主張のほうが部下の主張より正しいと思っているとき
*短期的な成果にどうしても出したいとき(焦っているとき)
*自分に絶対的な自信があるとき(部下を見下しているとき)

などが想起される。そういった場面でマネジャーが孤立しているという印象はない。

マネジャーが孤立しているときって、そんなにあるものなのか。仮にあるとしても、そんなときほど、マネジャーは部下の話をしっかり聞こうとするのではないか。

上司と部下の関係において、上司が部下の話を聞けない理由は、”孤立” とは関係ない気がする。

部下が孤立状態にいないかという点は、上司として要注意である。リモートワーク下で一人暮らしの人、新規参入者の人(新卒入社者、中途入社者、異動者など)は特に。

周囲と安定した関係性がないとか、自分を理解してくれる人は職場にいませんとか思わせていないだろうか。この本によれば、孤立感を抱いていると、他人の話をちゃんと聞けなくなり、こちらが届けたいメッセージが届きにくくなる。

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2種類の「わかる」

ひとつは、知識に当てはめて、相手をパターンに分類していく「わかる」です。・・・(中略)・・・もうひとつある。外側からではなく、内側から、相手がどのような世界を生きているかを「わかる」こと。(166ページ)

部下の話をちゃんと聞こうと思ったら、部下がどのような世界で生きているか(働いているか)を理解しようと努めることは必要だ。

確かに、部下の見た目、話し方、職務経験、話をした印象などで、なんとなく人物をあるパターンに分類している気がする。この部下はきっとこんな考え方、行動をするタイプだろうと。

付き合いが長くなるほど、その部下の話をしっかりと聞かなくなるのかもしれない。もし彼/彼女が何か言ってきたら、

*はは~ん。どうせ○○君はこうしたいと思ってるんだろうな
*このあと、たぶん✕✕と言うだろうなぁ

と先読みしてしまい、その発言の裏にある背景や理由などに思いをはせることはない。

これが「話を聞いていない」ということか。本の中で言っているが、”聴く” どころか、”聞く” ことすらできていないということだろう。

日々の仕事や生活の中で変化していく相手の状況、気持ち、考えがきっとあるはずである。リモートワーク下であれば、ますます部下の日常が見えない。部下がいまどのような世界で生きているかを知ろうとすることが大切なのだろう。

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聞かずに語った言葉は聞かれない。(49ページ)

まさに、である。

期初に部門の方針やビジョンなどを語っても、部下から「何も示されていません」という言葉が出ることはないだろうか。(私はあります)

こちらは「言ったつもり」「伝えたつもり」であっても、言葉が全く届いていない。

伝える内容自体に問題があるかもしれないし、内容の使え方にも問題があるかもしれない。もしかすると、それ以上に問題なのは、こちらが伝えたいことに関する聞き手の考えや思いを聞いてみるという機会がないことかもしれない。

聞かせたいなら、まず聞くこと。

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今日は、傾聴に関する書籍を読んでの感想でした。

昨日のことを思い出してください。皆さんは「話すこと」と「聞くこと」、どちらに多くの時間を費やしましたか?