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話し合いの作法(読書感想㉛)

bookshelf 1on1
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これまでのブログ記事で、「これからの組織マネジメントでは ”対話” が重要」という点に何度も触れてきた。(→ 関連するブログ記事へ

しかしながら、対話の重要性に関して、その背景や理由、対話における具体的な方法などについて、読者の皆さんに十分な情報提供ができていたかというと反省が残る。

その点がきちんと整理された本が発刊された。

著者は、人材育成や組織開発と呼ばれる専門分野において、国内の第一人者である立教大学の中原淳先生。

いつもながらではあるが、分かりやすい文章やなじみやすい言葉遣いで、対話(+決断)の重要性などが書かれている。

現代のミドルマネジャーをめぐる課題である、

*部下のキャリア自律支援
*コーチングを始めとする部下育成
*働き方の多様化が進む職場マネジメント
*エンゲージメントの向上
  などなど

これらを解決するヒントが、すべて ”対話” にあるといっても過言ではない。

以下は私の感想。

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① 残念な話し合いへの無自覚

企業の話し合いは機能不全に陥っている(12ページ)

残念ながら、そう感じることは本当に多い。

部下との面談一つとっても、”形ばかりの話し合い” は存在する。例えば、

  • 1on1ミーティングをやると、上司が会話を独占している
  • コーチングと言いながら、上司の考えに沿うように話し合いを ”誘導” している
  • 会議で部下に意見を求めるが、とりあえず発言させているだけの印象で、対話で個々の発言を深めたり、広げたりすることはない。で、最終的に多数決で物事を決める。(で、誰もやらない)

こんな場面、日常的に起こっていると思われる。

しかし、マネジャーはこの状況を問題視していない可能性がある。部下にとって良かれと思っていたり、「まあこんなものか」と思っていたりするかもしれない。

まずは、これからの組織マネジメントにおいての対話の重要性を理解すること、そして「対話していない自分」に気づくことが大切。

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② 民主主義を守るためにも対話を

我々は「民主主義」を守っていかねばならない(77ページ)

対話が民主主義の存続に影響とは、と大きな話題のような気もするが、本の内容を読んでみると納得。

特に印象的だったのは、日本財団の行った「18歳意識調査」で「自分で国や社会を変えられると思う」と答えた各国の18歳の割合で、日本のスコアがワースト1位(18.3%)であったこと。

話し合っても無駄だとか、どうせ知らないところで物事が決まってしまうとかいった事態が続けば、多くの人は無力感を学習してしまうだろう。

そんな状況が18歳という若い世代にあるというのは、政治を始めとする日本社会全体の問題なのだろうが、企業にとっても他人事ではない。

従業員が「何を言っても無駄」とか「物事が勝手に決まり、指示ばかり下りてくる」と感じている状況は、エンゲージメントやウェルビーイングの観点で決して健全ではない。

人的資本経営の実践が叫ばれている現在の経営環境からすれば、そんな会社はいずれステークホルダーから選ばれなくなるだろう。

そうならないためにも、日常の中で、話し合いや対話の質を高めていかねばならない。というより、高めていったほうが、全てのステークホルダーにとってハッピーな状態になると思われる。

その気になれば、今日の会議や、今日の部下とのコミュニケーションから意識的に変えられることである。

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③ フラットな関係の意識で

本の中で「対話に必要な8つの要素」が書かれている。(133~134ページ)

その中の1つに 対話には「フラットな関係」はよく似合う とある。

対話とは、フラットな関係のもので行われる、役職や立場を越えたコミュニケーションです。(132ページ)

マネジャーとして、部下の発言に対して以下のようなコメントをしていないか。

  • いいねぇ
  • やるじゃないか!
  • それでいいんじゃない

こういった、励ましの意図もあるようなコメントが、実は部下の発言(の良し悪し)を評価していることにつながっている。

もしかすると、部下は「評価されている」という自覚は明確にないのかもしれない。しかしながら、こういった関係が続くと、いつの間にか部下は

  • 上司に評価されることを目的に頑張る
  • 上司が考えていることに沿うような頑張り方しかしなくなる

かもしれない。この状態は、組織の縮小再生産とも言えるので不健全である。言い尽くされたことではあるが、変化の激しい時代、上司の経験が最善の答えを導き出す時代ではない。

ではどうすれば良いか。

本の中では、「あなたと私は対等ですよ」という行動を、意図をもって積極的に相手に示し続けること(174ページ)と言っている。

ちょっとしたことかもしれないが、なかなか難しい。だからやる意味があるのだろう。意識し続けるしかない。

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会社では、どちらの意見が正しいか/優れているかを競いあう議論が日常です。対話は行われていないに等しい印象です。

しかし、その重要性や有効性を考えると、今日からでも部下とのコミュニケーション(の一部)を ”対話ナイズ” することで、部下にとっても、職場にとっても、ミドルマネジャー自身にとっても、ポジティブなことがきっと起こります。

対話を学ぶには、おすすめの本です。