兄弟部屋:「人材育成・組織開発を考える部屋」へもお立ち寄りください!

話し合いの作法(読書感想㉛)

この記事は約5分で読めます。

これまでのブログ記事で、「これからの組織マネジメントでは ”対話” が重要」という点に何度も触れてきました。(→ 関連するブログ記事へ

しかしながら、対話の重要性に関して、その背景や理由、対話における具体的な方法などについて、読者の皆さんに十分な情報提供ができていたかというと反省が残ります。

その点がきちんと整理された本が発刊されました。

著者は、人材育成や組織開発と呼ばれる専門分野において、国内の第一人者である立教大学の中原淳先生。

中原先生の本は、いつもながらではありますが、分かりやすい文章やなじみやすい言葉遣いで、対話(+決断)の重要性などが書かれています。

現代のミドルマネジャーをめぐる課題である、

*部下のキャリア自律支援
*コーチングを始めとする部下育成
*働き方の多様化が進む職場マネジメント
*エンゲージメントの向上
  などなど

これらを解決するヒントが、すべて ”対話” にあるといっても過言ではありません。

以下は私の感想です。

*************

① 残念な話し合いへの無自覚

企業の話し合いは機能不全に陥っている(12ページ)

残念ながら、そう感じることは本当に多いですね。

部下との面談一つとっても、”形ばかりの話し合い” は存在します。例えば、

  • 1on1ミーティングをやると、上司が会話を独占している
  • コーチングと言いながら、上司の考えに沿うように話し合いを ”誘導” している
  • 会議で部下に意見を求めるが、とりあえず発言させているだけの印象で、対話で個々の発言を深めたり、広げたりすることはない。で、最終的に多数決で物事を決める。(で、誰もやらない)

こんな場面、日常的に起こっていますよね。

しかし、マネジャーはこの状況を問題視していない(気づきていない・感じていない)可能性がある。部下にとって良かれと思っていたり、「まあこんなものか」と思っていたりするかもしれません。

応援団長
応援団長

まずは、これからの組織マネジメントにおいての対話の重要性を理解すること、そして「対話していない自分」に気づくことが大切です。

*************

② 民主主義を守るためにも対話を

我々は「民主主義」を守っていかねばならない(77ページ)

対話が民主主義の存続に影響とは?? と少々大げさな表現のような気がしますが、本の内容を読んでみると納得します。

特に印象的だったのは、日本財団の行った「18歳意識調査」で「自分で国や社会を変えられると思う」と答えた各国の18歳の割合で、日本のスコアがワースト1位(18.3%)であったことです。

「話し合っても無駄」だとか、「どうせ知らないところで物事が決まってしまうだろう」とかいった事態が続けば、多くの人は無力感を学習してしまいますね。

そんな状態が18歳という若い世代にあるというのは、政治を始めとする日本社会全体の問題なのだろうが、企業にとっても他人事ではありません。

従業員が「何を言っても無駄」とか「物事が勝手に決まり、指示ばかり下りてくる」と感じている状況は、エンゲージメントやウェルビーイングの観点からみて決して健全ではありません。

人的資本経営の実践が叫ばれている現在の経営環境からすれば、そんな会社はいずれステークホルダーから選ばれなくなるでしょうね。

そうならないためにも、日常の中で、話し合いや対話の質を高めていかねばなりません。そして、高めていったほうが、全てのステークホルダーにとってハッピーな状態になるのではないでしょうか。

本気になれば、今日の会議や、今日の部下とのコミュニケーションから「話し合いの質」を意識的に変えらますよ。

*************

③ フラットな関係の意識で

本の中で「対話に必要な8つの要素」が書かれています。(133~134ページ)

その中の1つに

対話には「フラットな関係」はよく似合う

とあります。

対話とは、フラットな関係のもので行われる、役職や立場を越えたコミュニケーションです。(132ページ)

マネジャーとして、部下の発言に対して以下のようなコメント・反応をしていませんか。

  • いいねぇ
  • やるじゃないか!
  • それでいいんじゃない

こういった、励ましの意図もあるようなコメントが、実は部下の発言(の良し悪し)を評価していることにつながっているんです。

もしかすると、部下は「評価されている」という自覚は明確にないのかもしれません。しかしながら、こういった関係が続くと、部下は

  • 上司に評価されることを目的に頑張る
  • 上司が考えていることに沿うような頑張り方しかしなくなる

のかもしれません。

この状態は、“組織の縮小再生産”とも言えますので不健全です。言い尽くされたことではありますが、変化の激しい時代、上司の経験が最善の答えを導き出す時代ではありません。

ではどうすれば良いでしょうか。

本の中では、「あなたと私は対等ですよ」という行動を、意図をもって積極的に相手に示し続けること(174ページ)と言っています。

ちょっとしたことかもしれないが、マネジャーにとってはなかなか難しいと感じるでしょうね。しかし、だからこそ、実践する意味があるのだろうと思います。マネジャーの皆さん、やりましょうよ。

*************

会社では、どちらの意見が正しいか/優れているかを競いあう議論が日常です。「対話」は行われていないに等しい印象です。

しかし、その重要性や有効性を考えると、今日からでも部下とのコミュニケーション(の一部)を ”対話ナイズ” することで、部下にとっても、職場にとっても、ミドルマネジャー自身にとっても、ポジティブなことがきっと起こります。

対話を学ぶには、おすすめの本ですよ。

コメント欄