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大事なことは変わらない?(読書感想㉚)

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干支がひと回りする以上の期間、世の中のミドルマネジャーの皆さんにとって役立つような活動ができればと思い、日々あれこれを考え、自らもミドルマネジャーとして働いている。

この間に、ミドルマネジャーに関係しそうな書籍を数多く読んでいるつもりなのだが、

どの本も大体同じようなことを言っているなぁ

と感じている。

それは2010年以降の話ではなく、それ以前も含めて感じられる。(少なくとも1995年頃以降に出た本)

部下や組織のマネジメントで悩むミドルマネジャーはいつの時代にも存在するし、人を動かすために大切なことはそんなに変わるものではないのだろう。

例えば、D. カーネギーさんの名著『人を動かす』はいまでも本屋さんでよく見かける。(私が、最初に勤めた会社の先輩に勧められて読んだのが1993年だ)

一方で、時代の流れにより新たに現れたミドルマネジャーの悩みがあるのも事実だろう。例えば、

  • 年上部下のマネジメント
  • Z世代(物資やお金、出世などへの欲求に乏しい世代)のマネジメント
  • ハラスメントへの注意
  • メンタルヘルス対応

などといったものが直ぐに思いつく。

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さて、今回もミドルマネジャーに向けられた本を読んでみた。

上林周平 著『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』アスコム( 2022年)である。

著者はコンサルティング会社の代表で、監修者は法政大学の田中先生である。

これまでに言われていることとどう違うのか、人的資本(経営)というバズワードを加味して、オリジナリティのある内容が書かれているのかに着目して読んでみた。

以下は私の、思いっきり主観による感想。

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① マネジャーも人的資本

あなたが会社やチームのメンバーを人的資本として見ているとき、同じようにメンバーもあなたのことを人的資本として見ています。(52ページ)

部門のメンバーにとってはあなたの勤続年数も肩書きもほぼ関係ありません。あなたに対する評価基準は「どんなマネジメント能力を持って利益に貢献しているか」という点です。・・(中略)・・上下関係ではなく、フェアなヨコの関係なのです。(53ページ)

ジョブ型人材マネジメントの機運もあって、ミドルマネジャーはもはや年功職でも名誉職でもなく、単なる役割(機能)になってくるという点は同意できる。

ただ、会社と個人が「主従の関係」から「対等な関係」に変わりつつある現在、上司と部下という関係も同じように「対等な関係」になるのだろうかは疑問である。

人的資本経営であろうが、ジョブ型人材マネジメントであろうが、仕事に ”評価する/される” という行為がある以上、本当にフェアな関係になれるのだろうか・・・。

もし、”フェア” という点を担保するためにと、360度サーベイを育成目的でなく、マネジャーを評価するために使用するような風潮になったら逆効果で、組織マネジメントがおかしくなるだろうなぁ。(→ 360サーベイに関するブログ記事へ)

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② Value-driven なキャリアを支援

この本では、ミドルマネジャーを「チーム経営責任者(TMO)」と名づけ、必要な能力を7つ挙げている(一つひとつの詳細は省く)。

その7つの能力を用いて目指すことは以下の3点。

  • チームに与えられた業務目標を達成すること
  • メンバーの成長をサポートすること
  • チームを常に変革していくこと

目指すことは、これまでのものと変わらない。

7つの能力の1番目に「キャリア支援力」を挙げている点は今風か。と言っても、キャリアデザインという言葉は恐らく20年以上前から存在していたが・・・。

キャリアを構築する際のアプローチとして挙げられている「山登り型」と「川下り型」のうち、「川下り型」という考え方は参考になった。

「川下り型」とは

明確な目標に固執しすぎず、どんな状況に置かれようと、自分の大切な価値観を軸に目の前の仕事に一つひとつ一生懸命取り組んでいくもの(111ページ)

変化の激しい現在では、目指していたゴールが消えてなくなるかもしれないので、緩やかにしなやかに、自分の大事なものを軸に経験を積んでいくということか。

Vision-driven な生き方ではなく、Value-driven な生き方もあるなぁ。

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③ 強み発見力は大切だ

上記した7つの能力の2つ目に「強み発見力」が挙げられている。

人的資本経営で重要な指標となっているエンゲージメントでは、自分の強みを発揮して仕事ができているときにスコアが上がることが知られています。人的資本経営においては、各自が自分の強みを把握し、それを最大限発揮することが欠かせません。(130ページ)

部下の強みを活かすか、弱みを直すかといった議論は昔からあるが、これからの時代は「強みを活かす/伸ばす」マネジメントが大切になってくる気がする。

これからの組織マネジメントとしては、目指す目標やビジョンに向けて、必要な要員数、必要なポジションの役割を定義をして、人材を採用・配置・評価・育成などをしていく。

前提として、当該ポジションに必要な能力を有した人材や、そのポジションに意欲的に挑戦しようとする人材を集めるので、本人の持っている能力を存分に発揮してもらうというイメージで考えると、「足らざる点を補う」のではなく「強みを存分に発揮させる」ことがマネジメントの肝になってくると思われる。

ましてや、キャリア自律が進めば、本人の弱みによりパフォーマンスが発揮されない状況は自己責任で何とかしなくてはならないという考え方もできる。

では、強みをいかに発見するか。いくつかのTipsが本に書かれているが、

誰にでも固定観念はあります。それが悪いわけではありません。大事なのはそのことを自覚して、日頃からできるだけフラットな目線でメンバーを見ることです。(133ページ)

とある。

自分の価値基準や、自分との比較で部下を見ないこと、色眼鏡は掛けないことか。これは、これまでのマネジメント本でも言われてきたことなのだが・・・・。

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最後に:

この本の序盤に書いてあったことが印象的でした。

誤解がないように断っておくと、「人が大切」というのは真実だったと思います。・・(中略)・・ただし、その意味は、家族的なつながりや、仕組みを回す人員が欠けては困るという面が強かったのではないでしょうか。(46ページ)

仕組みとしての人材・・・人材は組織の「歯車の一つ」という扱いだったのかもしれません。

今後は人材を ”資本” として扱っていきましょうというのは、人の持つ可能性を引き出すようなマネジメントをしましょうということなので、これまでのマネジメント本で書かれているコンセプトは同じ。内容も似た部分は多いと思います。

いつも思うのですが、自らの組織マネジメント力(に限らず、能力全般)を高めるには、学んだこと/書かれていることを実践し続けるかどうかですね。(それを言っちゃあ、おしまいよ~)