コロナ禍になる前から話題であった「ダイバーシティ&インクルージョン」や「働き方改革」を推進する動き。そして、コロナ禍に伴うテレワークの普及。
これらの影響により、”職場” を再考しましょうというムードがある。
フィジカルな ”職場” でのマネジメントと、ヴァーチャルないしはハイブリッドな ”職場” でのマネジメントというだけでも、その違いを感じることはできるが、そこに「多様性」や「働き方改革」といった他要素が加わると、違いだけでなく、マネジメントの難しさも感じるのが一般的な感覚ではないか。
今回読んだ本は、北居明・大内章子 編著『職場の経営学 ミドルマネジメントのための実践的ヒント』中央経済社,2022年。
両著者とも大学の先生。本の内容は、具体的な事例がしっかりと書かれており、理論的な話ばかりではない。加えて、ミドルマネジャーの立場で書かれているので、多くのマネジャーの皆さんにとって参考になることが多いだろう。
以下は私の感想。
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① 職場づくりに5万円を遣う
インターネット調査を実施し、全国300名(うち男性93%)のミドルマネジャーからの回答を得て、以下のような結果が書かれていた。
部下の数が多いミドルほど、小遣いの額は多い傾向にあるようです。(16ページ)
う~ん・・・・大手企業ほど部下の数は多いだろうし、お給料も高いだろうから、これは当然の結果なのでは?
小遣いの額は課題達成度と統計的に意味のある関係がありました。また、職場の問題解決を考えるという課題達成と、部下と上司のインフォーマルな飲み会の回数の間に意味のある関係がみられました。(19ページ)
部下別の指導育成の実践に対しては、部下との飲み会の回数との関係がみられました。課題達成と飲み会の回数との関係を詳細に見ると、いずれも飲み会がゼロというミドルの達成度が最も低いという結果でした。(19~20ページ)
現実的な金額として月に5万円の原資が必要になってくるようです。(23ページ)
職場で業績をあげるためには、月5万円くらいのお小遣いが必要で、部下とのインフォーマルな飲み会があったほうが良いのか・・・。
なんだか、時代の風潮とは異なるように思える。例えば・・・
- 若者は上司との飲み会にポジティブなのだろうか
- 男性中心の社会の発想なのではないか
- リモートワークを前提にした発想ではない気がする
- マネジャー側の私生活も、以前に比べると決して楽ではない中で、飲み会への出費がどこまで許容されるのか
個人的には、この調査結果から出た提言を鵜吞みにしてはいけない気がする。これからの時代に合ったコミュニケーション方法を考えないと、これまでと何も変わらない。
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② 職場の不文律
不文律とは、人々が行動の拠り所とする、表には現れないルールのことであり、・・・(中略)・・・メンバーの行動に対してより大きな影響を与えているのは不文律です。なぜなら、成文律と違って、不文律は人々の実際の活動や相互作用から自然発生的に生まれてくるルールなので、人々にとって「本当のルール」と見なされ、遵守することが期待されているからです。(105ページ)
時代がボトムアップ型からトップダウン型に変わってきたことにより、不文律が障害になるケースが増えているのです。なぜなら、トップのビジョンや戦略の多くは現場の不文律を踏まえているわけではないためです。(109ページ)
確かに。
組織を変革しようとしたとき、高い壁となるのは不文律の存在という点に同意。明文化されていないし、メンバーもそれを顕在的に意識しているわけではないので本当に厄介。
本の中で紹介しているが、ADLマネジメント・スクール教授のピーター・スコット=モーガンさんは、不文律を比較的短期間で分析するフレームとして、以下を紹介しているようだ。
1.モティバーター(動機づけ):何が人々の行動の動機になっているか
2.エネーブラー(動機の実現役):人々が大事だと思っているものを与える立場にある人は誰か
3.トリガー(動機実現の引き金):モティベーターやエネーブラーと密な関係を持ち、モティベーターを獲得するための条件は何か
例えば、ある営業組織で「時間外労働が多いのは当たり前。成果を出すための残業はやって当然」といった不文律があるとした場合、以下のように当てはめられそう。
1.モティベーター:目標数字(ノルマ)を達成すること
2.エネーブラー:顧客
3.トリガー:顧客からの要望に迅速に対応すること/顧客からの要望には全てYESということ
時間外労働の多さのため、退職せざるを得ない人もいる(家族の事情など)。優秀な人材であれば、組織にとってはマイナスである。
働き方の多様性を認め、誰にとっても働きやすい職場をつくるためにも、この状況は変えていかねばならない。例えば、以下のような不文律に変えていく必要がある。
1.モティベーター:健全な働き方をすること(目標達成とのバランスを考慮して)
2.エネーブラー:会社・上司
3.トリガー:適正な目標や戦略、組織体制
どうやって変えていくか。
経営層や営業マネジャー層に対して、「不文律の変革」に向けたビジョンや方針の見直し・立案・遂行のための施策や、それに伴う目標や体制の見直し、それらを踏まえたうえで、営業組織内での対話機会の創出などが必要だ。
これらの施策は、ひとりのミドルマネジャーの権限でできることばかりではない。が、自職場を変えたい/変えなければならないという思い(ビジョン)があるのであれば、上記のフレームを活用し、自職場の不文律を考えてみると良いだろう。
マネジャーひとりで考える必要はない。むしろ、何が職場の変革を邪魔しているのか、問題点を職場の皆で考えるほうが効果的だと思われる。(→ 関連するブログ記事へ)
これまでのブログ記事でも述べているが、これからのマネジャーにとって、組織開発を行えることは必須能力であると思う。(→組織開発に関連するブログ記事へ)
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③ ダイアログ・コミュニケーション
外国籍のスタッフを多く雇用すると、今まで見えていなかったこと、日本人としての固定概念にとらわれていたことに気づかされることがありました。このような気づきを得るためには、職場におけるコミュニケーションにディスカッション・タイプだけでなく、ダイアログ・コミュニケーションを導入する必要があると思われます。(143ページ)
上記②で書いているが、これからの時代、ミドルマネジャーは組織開発を推進できることが必要で、そのためには対話(ダイアログ)の機会を創出できなければならない。
「うちの職場には外国人が来ることはないから対話は必要ない」
という思考は残念極まりない。
日本人同士であっても多様性は存在している。
ミドルマネジャーの経験や知識がいつも正しいという時代ではない。考え方や価値観などは”正しい”とか”正しくない”という次元の問題ではない。
一人ひとりの多様性を活かすことが求められる時代において、一人ひとりの思いや考え、価値観を知る機会、それが対話である。くどいようだが、議論(ディスカッション)ではない。
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この本の中には、「テレワークとヴァーチャルチームの違い」といったトピックもあり、これからの職場を考えるうえでのヒントが複数ありました。事例もあり、文章も読みやすいです。
この本を読んで、改めて思いましたが、上からの指示や命令を下すだけのトップダウン型のマネジメントならシンプルですが、今後必要なマネジメントはそうではなく、トップダウン型でありながら、対話を重視するマネジメント。
そんなマネジメントスタイル・・・プレイングマネジャーには難度マックスな気がします。
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