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承認行為の注意点(読書感想㉘)

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多くの人がSNSを活用している理由の一つに「他者に承認されたい」ということがあるだろう。

部下マネジメントにおいても「部下の承認欲求を満たしてあげましょう」的なことは以前から言われている。

最近、フォロワー数や ”いいね” の数の多さを競い合っているような社会状況をみると、多くの人が何だか妙な感覚を抱く。こんな状況がビジネスやマネジメントにもたらす負の影響もあるのではないか。

そこで、承認欲求のもたらす負の側面を知りたいと思い、今回読んだのは、この本。著者は、”承認” に関する国内第一人者である太田先生。

以下は私の感想。

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① 呪縛をもたらす3要素

「認知された期待」「自己効力感」「問題の重要性」を呪縛の3要素と呼ぶことができる。定式化すると、(認知された期待 ー 自己効力感)× 問題の重要性 = プレッシャーの大きさ、すなわち「承認欲求の呪縛」の強さである。(127ページ)

なるほど。

書籍『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった一つ』(※)では、

①なぜ私がこの仕事を担当するのか?
②この仕事は、今どんな状況なのか?
③この仕事はどんな評価を受けるのか?
④私に対して、上司はどう考えているのか?

という4点を、部下に認識させるようにメッセージを出すことで、部下の動機づけが向上すると言っている。

「君だから頼みたいんだ」とか「君の成長を期待してお願いしたい」という①や④に該当するメッセージは「認知された期待」か。

「君に任せたい仕事はうちの組織にとってとても重要で」とか「この仕事のもつ重要性は・・・」という②や③に該当するメッセージは「問題の重要性」か。

本で言っている「承認欲求の呪縛」の公式を考慮すると、部下の「自己効力感」を踏まえてメッセージを出さないと「承認欲求の呪縛」にハマるということか。

※ 高木晴夫著『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ』かんき出版(2020)

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② 制度で呪縛を解く

日本人は仲間からの承認を重視するので、同僚から認めてもらうため、あるいは迷惑をかけないために残業し、休暇の取得をためらっている人が少なくない。
 したがって割増率の引き上げや、残した休暇の買い上げを制度化すると同時に、個人の仕事の分担を明確にする必要がある。(185ページ)

日本人は、上司や同僚から承認(評価)を得るために、おかしな方向性の努力や無駄な時間の使い方をするのか。

制度で人や組織を変えていくことには限界がありそうだ。人の考え方・捉え方を変えていく必要があるので、組織開発の必要性がある(必須だろう)。

組織開発に関連する本を紹介したブログ記事へ

③ 承認はフィードバックである

そもそも承認は鏡にたとえられるように、本人が自分ではわからないところについて正しいフィードバックを送ることが目的である。(195ページ)

言われてみればそうだよな。承認行為とフィードバックをなんとなく別物扱いしていたなぁ。

結果承認であれ、行為承認であれ、存在承認であれ、フィードバックと言えそうだ。この本の中でも言っているが、できるだけ客観的な指標や具体的な事実に基づいて承認を行うという点は、まさにフィードバックでも言っていること。

④ 外の世界を持つ

呪縛を解くための三番目のカギは「問題の重要性」を下げることである。(中略)言い替えるなら、問題を相対化できるかどうかである。(202ページ)

組織や集団への依存度を下げれば、たとえ「認知された期待」と「自己効力感」のギャップが大きくても、強いプレッシャーを感じなくてすむわけである。(210ページ)

たしかに、外に出る(転職をする)勇気や副業を担える能力がないと、今いる組織にしがみつく。だから、本当はやりたくないことやおかしいと感じることでも「やらねばならない」状況になってしまう。

「こんなことをやらないといけないような組織は辞めよう」とか、「こんなの、おかしいじゃないですか!と上司や周囲に言える」とかいった状況であれば、承認欲求の呪縛は確かに減りそうだ。

そのために、著者は「メンバーの「プロ化」」を提言している。人事ローテーションを行い、ゼネラリストを育成する従来の日本の仕組みでは、多くのサラリーマンが「欧米に比べると、はっきり言って「素人」の域を出ない」とも言っている。

たしかに。

このあたりは、最近話題の「ジョブ型人材マネジメント」が関係しそうだ。ジョブ型であれば、プロ人材の養成につながる可能性はある。

ただし、この点は前回のブログ記事で述べた ”キャリア自律” が、どの程度日本のビジネス界に浸透するかに依存するだろうと思われる。(前回のブログ記事へ

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部下マネジメントにとって承認行為は重要であるのだが、それが部下の働きがいやパフォーマンスの向上にポジティブな影響を与えるためには、ひとりのマネジャーとして注意した方が良い点も多くあるが、ネガティブな影響を抑えるためには、組織として、更に言えば国を挙げて取り組んでいった方が良いこと(人材の流動性を高めるなど)もありそうである。