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仕事のデザインで人材を育成する(読書感想⑳)

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以前に、立教大学経営学部の中原淳先生と、

コロナ禍になり、リモートワークが導入されてくると、”職場” という言葉がイメージされなくなってくるのではないか

という話をしたことがある。(→ 関連する中原先生のブログへ

その頃から、”職場” の存在が気になっている。

会議のイラスト(男女) | かわいいフリー素材集 いらすとや

今回読んだのは、坂本理郎 著『人材育成と職場の人間関係』中央経済社(2020)

都内の大型書店でこの本を見つけ、出版日を見ると2020年。

「あ~、コロナ前の研究か・・・」と思ったが、上司と部下の1対1の関係性ではなく、職場でどうやって人材育成をするのかとても興味深かったので即購入。

図書館・本屋の従業員のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

著者は大手前大学現代社会学部教授(出版当時は准教授)。

本の内容は、丁寧な研究の成果。専門書ではあるが、著者ご本人は「この本は、部下育成に取り組み職場の「上司」と呼ばれる人々にも読んでもらいたい」と述べておられる。

以下は私の感想。

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① 職務特性、またまた登場

上司やメンターとの垂直的な関係性は組織に働く者として非常に重要なものであることに違いないが、個人のキャリア形成を促進する関係性はそれだけではない。(44ページ)

そこで、この本では「デベロップメンタル・ネットワーク(Developmental Network:DN)」を主要概念として取り扱っている。

DNとは、被育成者の成長に関心を持ち、彼/彼女が成長することを支援してくれる(と彼/彼女自身が認める)人びとで形成されたネットワーク のこと。

本の中(本研究)では、キャリア初期の若手従業員の成長を促進する人間関係としてDNに着目し、DN構築に職務特性がどのように影響しているのか、またその影響力は個人要因(発達や性格)と比較してどのように差異があるのかを明らかにしている。

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DNの形成(人数や関係の強さ)にはどのような要因があるのかを調べてみると、

被育成者である若手従業員の担当している 職務特性

性格や発達という個人の心理学的要因よりも影響が大きいと思われる。(153ページ)

ほー。

感心している人のイラスト(男性) | かわいいフリー素材集 いらすとや

個人的には、性格的要素、例えばビッグ・ファイブでいうところの「外向性」はDN形成に大きく影響しているのではないかと思ったので、少々意外であった。 ※ ビッグ・ファイブの紹介サイト(Wiki)

職務特性の中でも「タスク多様性」と「相互依存性」がDN形成には有効なようだ。

  • タスク多様性とは、作業に必要な作業内容が多様であったり、作業に必要な知識や技術が多様であったりすること
  • 相互依存性とは、職場メンバーと一緒になって意見を出し合い、問題解決すること。困っていることや分からないことがあれば、互いに助け合うこと。職場で目標がよく共有されていること

定量的に分析してみると、DN形成は被育成者の「成長実感」や「キャリアモチベーション向上」といった要素にもつながっているようだ。

以前に、このブログで職務設計論を紹介したが、その際は「部下の内発的動機づけ(モチベーション)向上のために」ということであった。(→ 関連するブログ記事へ

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現場マネジャーへの示唆:職務の特性を踏まえて被育成者の仕事を設計(デザイン)することで、被育成者のモチベーションや成長実感にポジティブな影響を与えられそう。

② モヤっと感が残る

この本のサブタイトルは「人を育てる職場や仕事のデザイン」となっている。

DNを豊かにするための ”仕事のデザイン” に関しては、上記①に書いたような学びがあったのだが、”人を育てる職場” に関しては現場で活かせそうなヒントは得られなかった。

困る男性のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

被育成者のDN内の 人物の個人特性 をスコープに入れると、職場が少しリアルにイメージできる気がする。

世話好き” や ”面倒見が良い” と言われるような人物が多いDNと、そうでないDNでは ”人を育てる職場” のイメージが大きく異なる。

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著者も、今後の課題として「上司の関わり行動に関する探究」は必要と述べている。

現場のマネジャーとしては、リモートワーク環境下でメンバー間の関わりが薄れている職場において、被育成者を職場でいかに育成するかについて、何らかの示唆はあればとてもうれしいだろう。