以前にこのブログで紹介した書籍『人事の組み立て』
がとても面白く、勉強になったので (→『人事の組み立て』の読書感想へ)
著者の新刊『人事の企み』を購入し読んでみた。
この本のサブタイトルとして、[~したたかに経営を動かすための作戦集~]とあるので、『人事の組み立て』とはテイストが異なり、”作戦” というだけに、具体論が多く書かれている。
第一作戦から第四作戦まで書かれているが、個人的には第四作戦【組織設計と育成篇】がおもしろかった。
なお、この本は現場のマネジャーではなく、人事部門の人を対象とした本。
以下は私の感想。
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① ”キャリアの型” を踏まえた制度づくり
前著『人事の組み立て』にも書かれている内容だが、本著でも重要なコンセプトの1つ。
人事が制度や施策を作る時、絶対に忘れてはいけないことがあります。それは「自社のキャリアの型」です。(219ページ)
”キャリアの型” には3タイプあり、以下のように TypeA~C としている。
*年代による給与の差が大きければ TypeA(メガバンク、総合商社、グローバルメーカー 等)
*個人による給与の差が大きければ TypeB(人材系ビジネス、不動産、証券営業、外資系生保 等)
*年代差も個人差も小さければ TypeC
経営を考えるうえで、また従業員のキャリア形成を考えるうえで、この区分けは本当に重要だと思う。
世間の仕事の中には、新卒で入社して直ぐに(数年で)活躍し、中堅・ベテランと変わらない成果を上げられる仕事がある。 ※これは TypeB に該当
発揮するパフォーマンスが若手・中堅と変わらないのに、年功で高い給料をもらっているベテランをどう処遇するか。
このブログでも、何度か取り上げている ”ジョブ型” の人事制度への移行の動きは、上記のようなベテラン社員を何とかしたいという考えも理由の1つになっている。
自社の ”キャリアの型” を踏まえ、
「儲けのアップ」と「能力のアップ」の2つが並立している(217ページ)
状態と(制度を通じて)つくるのが人事の仕事。なるほど。
② ジョブ型のように見える販売会社の制度
「販売会社」とは欧米型ノンエリートそのもの(228ページ)
大手企業(メーカー)は別会社として販売会社を持っている。
販売会社のトップマネジメントは本社(メーカー)からの出向(天下り的?)なことが多く、販売会社のプロパー社員にはガラスの天井があることが多い。
従業員がエリア別雇用であれば、「決められた地域で、決められた仕事(営業)を続ける」ということであり、これは、欧米の大半の人(=ノンエリート)の働き方と似ているとのこと。
その場合、給与は変わらないのが普通。巷間言われている ジョブ型 とはそういう制度だ。
ジョブ型で働いている欧米の(ノンエリートの)人が、ワークライフバランスの面で日本より充実して見えるのは、頑張っても給与が上がるわけではないので、仕事はソコソコにして帰ることができるから。 ※ 他の理由として、職業別の組合制度の存在なども挙げられる
では、上記した販売会社で働いている人は、日本で同じような働き方ができるか。どうやら NO である。
理由としては、給料に年功要素があることや、年次に応じて課長あたりまでは昇進できることなど、人事制度に日本的な部分があるから。
良い評価をもらうために、無駄に長く働いたり、ライバルを意識したりすれば、仕事をソコソコにして帰宅することなどできないと考えるだろう。
①で挙げた ”キャリアの型” を踏まえ、人事制度から「年功」という要素をいかに排除できるか。
日本人のもつ 年齢への価値観 を考えると、相当ハードルが高そうだ。
③ Will Can Must の扱いかた
このブログでも書いたことがある Will Can Must 。キャリアを考える際の、黄金のコンセプトである。
(→ 以前に書いた、関連する記事へ)
王道的な考え方としては、Will Can Must の3つが重なった部分が「最適目標」であるとして、そこを考え、マネジメントするというもの。
しかし、著者は
MBOで一番大切なのは、「やりたいこと(Will)」&「やらねばならないこと(Must)」の交点部分です。本人は意欲的、会社としてもやってほしい。でもまだ「できない」。すなわちこれは、大いに成長を促す課題となる。だからこの領域は「挑戦目標」と名づけることができるでしょう。(276ページ)
と述べている。
ちなみに、「できること(Can)」と「やらねばならないこと」の交点は「圧迫目標」、「やりたいこと」と「できること」の交点は「堕落目標」と表現している。
なるほど。
MBO(目標管理)は、本来ノルマ管理の制度ではないので、本来のMBOはこのような思考が重要なのだと改めて思った。
いま流行りに ”キャリア自律” を支援することにもつながる。(→ キャリア自律に関する記事へ)
この点は人事部門の人だけでなく、現場のマネジャーにも必要な思考だ。
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個人的には、前著のほうがおもしろかった。
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