心理学者クルト・レヴィンさん曰く、「優れた理論は実践的である」と。
新たな知(理論)を生み出すことに努力している研究者、成果を出すために努力している実践者。
人と組織のマネジメント分野で、現場の実状を知ろうとしている研究者は多くいるが、人と組織のマネジメント研究の世界を知ろうとしている実践者(マネジャー)は多くはいない。
なので、アカデミアの世界で発見された知が実践者に知られることのないまま、もったいないことになっている。
裏返せば、
これを知ってたら現場で役立つのに~
という知がふんだんにある。
もちろん、人と組織のマネジメントの世界なので、正解は1つ、なんてことはない。加えて、有益とされる取り組みには副作用が伴うことだってある。
そのあたりを踏まえて、現場に役立つ知がまとめられている本がコレ!
マネジャーにとって、部下とのコミュニケーションはもちろん、人や組織にまつわる課題について、現場のマネジャーに役立つ知が整理されている。
以下は私の感想。
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最近のバズワード ”心理的安全性” について
心理的安全性を高めましょう!といった声が近年聞かれる。(関連本もたくさん出ている)
何があれば、心理的安全性は高まるのでしょう。心理的安全性の研究を統合的に分析した研究を頼りに、主要な要因を紹介します。(104ページ)
4つ書かれている要因のひとつに「上司のリーダーシップ」がある。
上司を信頼しているほど、部下の心理的安全性が高いらしい。また、上司が「変革型リーダーシップ」を発揮して入れば、部下の心理的安全性は高まるようだ。
では「変革型リーダーシップ」って何か。以下のような行動を示している。(69ページ)
- 高い目標や理想を掲げ、フォロワーに感銘を与える
- フォロワーに働く上での意義を示して、鼓舞する
- フォロワーに新しい視点を提供し、革新への意欲高める
- メンターとしてフォロワーに学習機会を提供する
これらの項目を実践できているマネジャーはそうはいない!!
が、示唆を与えてくれている。
自職場には「高い目標や理想」があるのか!?
心理的安全性は「対人関係上、何を言っても大丈夫」という状態である。
これまでのことを前向きに否定したり、これまでにない突飛な発想をしたりする発言には、職場に「高い目標や理想」が必要なのではないか。
「高い目標や理想」がなければ、出てくるのは現状への愚痴、不平不満。そんな発言を許容するために心理的安全性があるのではない。
「何を言っても大丈夫」という状況をつくる前に、「高い目標や理想」を掲げることを考えねば。
能力観
「人の能力は高めていける」と考える人もいれば、「人の能力は生まれつき決まっている」と考える人もいます。(中略)後者の能力観を持つ人は、学習目標志向性が低い傾向があります。(138ページ)
学習目標志向性とは、物事に取り組む際に自分の能力向上を目指すこと。(104ページ)
この本の中では ”学習目標志向性” が結構出てくる。様々な面で大事な要素のようだ。
マネジャーとして、「人の能力は生まれつき決まっている」という能力観をもっている人は育成をどう考えているのだろうか。
本には「自分の能力は高められると信じよう」と書いてあるが、「他人(部下)の能力を高められると信じる(能力観を変える)」ことは難しいのか。
また学習目標志向性の低いということは、こういう人は マネジャーとして自ら能力向上を図ることをしない とも言える。
そんなマネジャーのもとで人が育っていくようには思えない。
もし能力観を変えられないのであれば、「人の能力は生まれつき決まっている」という能力観をもっている人をマネジャーにするのは危険なのではないか。
モチベーションの高め方
(前略)モチベーションは、自分以外の外部から与えられています。これを「統制的」と呼びます。他方で、(中略)モチベーションは自分から湧き出ています。これを「自律的」と呼びます。先行研究によれば、統制的なモチベーションよりも自律的なモチベーションのほうが、効果があることがわかっています。(152ページ)
効果とは、仕事で情緒的に疲弊しないとか、会社への愛着をもって働けるとかということ。
たしかに、飴やニンジンをぶら下げられないと頑張れない人よりも、自分で仕事に意義をみつけられる人のほうが会社にとっては理想だろう。
統制的と自律的では、効果の現れ方が違うらしい。
自律的なモチベーションは、パフォーマンスの「質」の向上につながる。統制的なモチベーションは、パフォーマンスの「量」にプラスの影響をもらたす(154ページ)ようだ。
なので、自律的なモチベーションが効果的・得意なタスクは複雑なもの、統制的なモチベーションが効果的・得意なタスクは単純なものらしい。
世の流れとして、この先、単純なタスクはAIやRPAが代替していくだろう。
そうなると、部下に対して統制的なモチベーションを与える場面が少なくなり、考えなくてもよくなる。
マネジャーの価値は、部下に自律的なモチベーションを与えられるかどうかということになる。
そうなると、これまでのブログに書いてきた内容(1on1、コーチング、キャリア支援)の実践がマネジャーの存在意義にとってますます大切になる。
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