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M&A後の職場づくり(読書感想⑪)

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仕事でお世話になっている立教大学の中原淳先生が新しい本を出された。

齋藤光弘・中原淳 著『M&A後の組織・職場づくり入門』ダイヤモンド社 2022年

私の所属している会社でも、最近M&Aがあり、PMI(Post Merger Integration)を経験中なので、とても興味深く読めた。

M&Aに関する本で、統合後の人・組織に関するあれこれが書かれた本は多くない。

内容は、先行研究や著者らが取得したデータに基づき、とても理解しやすく書かれている。

本の中に多く出てくるワードに「目的」「理念」「ビジョン」「対話」が挙げられる。

全体を通じての印象として、これらはM&Aを成功させるためのカギと言ってもいいだろう。

そう考えると、PMIは組織マネジメントの重要な要素が凝縮されたイベントであり、普段から組織マネジメントが上手に行われている組織であれば、M&Aの ”買い手” になったときは、きっと上手に進められるのではないかと思った。(上手と言っても、相当な苦労はあるだろうが)

以下は本を読んでの感想。

① M&Aのプロは社内に育てにくい

経済産業省(2019)も、「M&A業務は・・・(中略)・・・。そのため、日本の短期間の人事ローテーションになじみにくい側面がある」(87ページ)

たしかに、M&Aを常時検討している会社って多くないだろうし、これまでの日本型人材マネジメントの風潮からしてもプロフェッショナルは育ちづらいだろうな。

本の中で、明治大学の岡俊子先生がおっしゃっているが、M&Aは「成熟社会で有効に使われる経営のツール」だろうし、中小企業の事業継承を考えると、M&Aはもっと活発になってくるだろう。

そうなると、専門組織を社内に用意する時代になる?

少なくとも、人材育成部門の人は、組織開発に関する知識を有しておく必要があるだろう。

② ストーリーで語ることの大切さ、価値

そもそも、別々の組織に属していた社員が一緒になるわけですから、組織文化や価値観は異なるものです。それらの社員に同じゴール、同じビジョンをイメージしてもらうためには、(中略)「目的やビジョンをストーリーで伝える」という方法です。(138ページ)

”ストーリー” という言葉がビジネスの文脈に現れてからしばらく経つ。

売上や利益などの数値で将来を語るのではなく、聞き手の心情にメッセージを深く届けるために、過去・現在・未来をつなげてストーリーとして語り、共感を生み出す。

これは、M&A時だけでなく、日常のマネジメントでも有用。

マネジャーが自らのビジョン、方針などをメンバーに語る際にストーリーで語れると良いのだが、これをやるには ”心の底からの思い” がないといけない。

上っ面な言葉をツラツラと語れば語るほど、簡単にメンバーに見透かされる。

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③ ちゃんと考えてもらうと退職意向は低減

M&Aから学びや気づきを得られた社員は、退職意向が約15%ポイント減少します。社員の学びや気づきを支援することで、退職を考える人の割合を下げられる可能性があります(245ページ)

これには少し驚いた。

エプロン姿の男性の表情のイラスト「ひらめき」

統合後の自分についてちゃんと考える人ほど辞めたくなるのではないかと思っていたのだが、反対のようだ。

ちゃんと考えないから辞めたくなる。

普段のマネジメントができていることが大切

M&A後の組織・職場づくりは、変化に対する人の受け取り方(不安や喪失感など)に注意する必要はあるが、組織マネジメントの基本は変わらないと感じた。

ただし、組織開発には要注意。

組織開発を専門で学んでいる現場マネジャーは多くないが、これからのマネジャーにとってはかなり重要な要素となってくる。

M&Aに関係なく、マネジャーが学ぶべきテーマである。(組織開発に関して書いたブログへ