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読書感想:人材投資のジレンマ

eyeglasses on opened book beside cup of coffee on table 図書館
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「失われた30年」 。

根本治療どころか、対処療法すら拒んでいるように見える日本経済と日系企業(とそこで働く人たち)は、「失われた10年」が「失われた20年」になり(→ 独立行政法人経済産業研究所さんのサイトへ)、遂には「失われた30年」にまでなっている状況をどう見ているのでしょうか。

私見として、痛みを伴う改革を避けていては、「失われた40年」と呼ばれる状態になる確率が相当高いと思っています。

いま「人的資本経営」が叫ばれ、人材育成が大事と言っていますが、人や組織がやりがいや活力をもって働き、生産性の高い状況を創るためには、現状を客観的に理解し、何が必要なのかを一人ひとりが慣性に逆らって考えることが大切です。

人材育成が本当に大事だと思うのであれば、現場のミドルマネジャーの皆さんも読んでおいた方が良さげな本を紹介します。(おそらく、本来の読者は人事界隈の仕事にしている人たち)

守島・初見・山尾・木内 著『人材投資のジレンマ』日経BP・日本経済新聞出版(2023)です。

大学にお勤めの各先生が大規模な調査データをもとに、人材投資に関する現状と今後について述べられています。

応援団長
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以下は、ミドルマネジャーの皆さんへの提言を書いております。よろしければお読みください。

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① 若手従業員との接し方を変えること

中途社員がほぼおらず、プロパー社員で人材マネジメントを行ってきた(大手)日系企業。

そこには終身雇用制度、人事主導による異動配置、年功賃金といった制度が備わっていました。そんな制度の中で長い時間を過ごしてきた組織には、現在様々な点において綻びが生じています。

本の中では3つの綻びを挙げています(78ページ)。それは、

1.人々が仕事にやりがいを感じていないこと
2.自ら学ぼうとする人が少ないこと
3.離職が多いこと

1番と2番に関しては、私は「そりゃー、そうなるわな」と思います。会社都合で配置を決められ、しかも3~7年ごとに色んな仕事に回されることが続けば、

初めての仕事は覚えるのに必死。やっと覚えたと思ったら、また異動か・・・

どうせあと数年でまた異動だし、ここで(時間・お金をかけて)専門的なことを学んでも意味ないよな・・・

頑張っても頑張らなくてもそんなに給料に差がつかないし、毎年少しずつだけど上がるから・・・

と考えてしまうのはやむを得ないことですね。

上記3点に対して1つ異論があるのは、日系の会社(主に大手企業)では上記3番目の状況が該当しない世代がいるということです。

1番と2番に該当しているにも関わらず、”離職しない” 世代・・・それはミドル・シニア世代です。仕事にやりがいを感じておらず、自ら学ぼうとしない。そして、会社は辞めない人たち・・・。(→ 関連する論文へ)

日本人ビジネスパーソンが学ぼうとしないことに関しては、各社の調査で明らかになっています。(→ パーソル総合研究所の調査結果

離職に関しては、ミドル・シニア世代と若手世代では様相が異なります。若手世代は、「この会社にいても成長できそうにない」と感じられれば辞めてしまいます。(→ 関連サイト パーソル総合研究所 働く10,000人 成長実態調査2022

本の中(86ページ)では、

大規模企業の男性離職の傾向が一般的な離職傾向に近づいてきた

と書いてあります。ということは、「うちは大手企業だから、まさか辞めることはないだろう」という見方は古いということです!特に売り手市場の現在、若手従業員への求人ニーズは旺盛ですので、転職しやすい状況です。

やりがいを感じておらず、学ばない/現状維持派のミドル・シニアが蔓延り、せっかく採用した若手がやる気をなくして辞めていく・・・・・こんな状況が続けば会社はどうなりますかね?

ミドル・シニア世代に対する ”痛みを伴う変革” を組織として進めるべきと考えますが、ミドルマネジャー個人ができる変革として、自己成長を求めている現代の若手従業員への接し方の変革があります。

本の中では、これからの人材育成の手法として「コーチング」を勧めています(233ページ)。なお、日本国内の外資系企業と比較して、わが国企業(日系企業)のコーチングの導入レベルは低い(234ページ)ようです。

私の経験では、「コーチング研修」を実施している企業はあっても、「コーチング」が実践されている企業は少ない気がします。ミドルマネジャーの皆さん、いかがですか?

応援団長
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辛辣なことを言うようですが、コーチング研修の受講経験があっても、実践していない現実。なので、”今さらコーチング?”なんて、多くの人が言えない状況なのでは??

ミドルマネジャーの中には「自分は定年まであと数年だから逃げ切れる」という発想をする人はいないと思いますが、もしそんな意識をもった人がミドルマネジャーであれば、その組織は「失われた40年」にまっしぐらなのではないでしょうか。

② 組織開発を学ぶこと

日本企業の生産性の低さは有名です(→ 関連記事:HRブレインさんのサイトへ)。働き方改革は、生産性を高めるための取組ですね。なんとかしたいテーマです。

生産性に関して、この本の中にこのような記述がありました。

生産性の向上に直接つながる要因は、主体的な行動と主体的な思考であることが確認された。また、主体的な行動・思考を促進する重要な要因が、従業員の「マインド面」であることが明らかになった(166ページ)

従業員のマインド面の向上に、「教育訓練」「自己啓発支援」「組織開発」への投資が有効(168ページ)

「ワーク・エンゲージメント」に対しては、「組織開発」のみが有意な影響を与えていた(169ページ)

いま、多くの企業がエンゲージメントに関してサーベイを実施しています。

サーベイを実施するのは、人的資本に関連する情報開示が義務化されている背景もありますが、企業としては、「ワーク・エンゲージメント」を向上させることは、今いる(いてほしい)従業員を組織内にとどめることにもつながりますし、外部から人材を採用するときにもポジティブな影響を与えることになりますので大切なこととされています。

応援団長
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せっかくやっているサーベイなのに、結果の扱い方が雑で、もったいないことになっている組織が多い気がします。皆さんの会社はいかがですか?

その「ワーク・エンゲージメント」を向上させるには「組織開発」が有効なようです。このブログでも複数回出てきているワードですが、ミドルマネジャーの皆さん、「組織開発」って聞かれたことがありますか?

(→ 組織開発に関して書いているブログ記事へ

この本に書かれている調査では、約4割の従業員が「社内で『組織開発』という言葉を聞いたことがない」と回答している(185ページ)です。

この本の中でも言っていますが(207ページ)、世の趨勢(人材不足、多様性重視)も見ても、特に日系企業のミドルマネジャーは「組織開発」を学び、実践できるようになったほうが良いですよ。

学ぶ際にお勧めの本です。どちらも読みやすいです。

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今日は、主に人事界隈の人が読むような内容の本ですが、人材育成を本気で考えるなら、現場のミドルマネジャーの皆さんも読んだほうがいいのではと思った本をもとに提言を書いてきました。

本の後半にこんなことが書かれています。

これまでは、どちらかと言えば、社内の他者(同僚など)との公平感(内部公平性と呼ばれる」が重要であり、働く人は、同僚や同期の仲間などとの比較に一喜一憂していた。だが、今後は、他企業の他者との公平感(外部公平性)が重要だと考える社員が増えてくることが考えられる。(228ページ)

現在は給料の相場感を調べようと思えば、ネットで調べられる時代です。自分と同じような職種に就いている、他社で働く人との交流の場がリアルでもネット上でもあります。つまり、外部情報に触れられる機会が多くある環境が現代です。

残念ながら、多くのミドル・シニア層はそういった環境をあまり活用せず、ましてや何の自己変革も起こしていないのではないでしょうか。が、現代の若手層はそうではありません。

今後ますます外部公平性を重視する若者が社会に出てきます。それを踏まえたマネジメントに変革していくことがミドルマネジャーに求められます。

自分のマネジメントスタイルを真剣に見直し、変えてみませんか。