人事部門だけが「ジョブ型人材マネジメント」を理解していても意味がありませんし、そんな状態では、恐らく企業価値の向上も、競合との差別化も実現できません。
「キャリア自律」が謳われている今、全ての従業員が自社の人事制度に対する理解は(これまで以上に)必要ですし、従業員をマネジメントするミドルマネジャーの皆さんも「人事関連業務は人事に任せておけばいい」という時代ではなくなってきています。
昨今話題の人事制度である「ジョブ型」に関する書籍は多く出ていますが、今回読んだ本(※)は、ジョブ型の人事制度を取り入れた会社のミドルマネジャーの皆さんだけでなく、全ての従業員の皆さんが読んだほうがいいと思います。なぜなら、サブタイトルにあるように、「キャリア迷子にならないために」です。
(※)藤井薫 著『ジョブ型人事の道しるべ キャリア迷子にならないために知っておくべきこと』中公新書ラクレ 2025年
今回のブログは、この本の感想です。ミドルマネジャーの皆さん向けに書いています。
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役割は、育成のために与えない。やりきってもらうために任せる
職能資格制度では、メンバーの成長を期待して一段上の等級を与えてもOKでしたが、ジョブ型は違います。
卒業方式では、「企画業務ができる」というのは、3等級の能力開発目標だという位置づけであり、3等級の人は企画業務にチャレンジせよという発想です。その意味で、職能資格制度は能力開発主義の制度だという考え方です。 それに対して、職務給、ジョブ型の制度の場合、企画業務の担当には、企画業務ができる人を配置することが前提になります。そして、3等級になるためには、「できる」というだけでは不十分で、実際に企画業務を担当していなければなりません。適所適材の配置して仕事に応じた処遇を行うのが、ジョブ型であり、職務給であることの意味です。(115~116ページ)

ジョブ型では、本人の能力開発のために/経験学習のために役割を与えるのではありません。事業戦略の確実な遂行のため、その役割を間違いなく果たしてもらうために任せるのです。
この点は、ジョブ型で人材マネジメントの基本として押さえておきたいですね。
以前のブログで書きましたが、職能資格制度では「(ちゃんと運用されていれば)ずっと高評価というのはおかしい」と書きました(→ 当該のブログ記事へ)。一段上の等級の役割を昇格初年度から果たすのは、普通に考えると困難だからです。
しかし、ジョブ型では、その役割(ポスト・ポジション)に着任して早々から、高いとまでは言えずとも、中程度のパフォーマンスを発揮することは大いにあります。というより、中程度のパフォーマンスを発揮してもらわなくてはなりません。確実に役割を果たせると見込んで任せますので。
ですので、ミドルマネジャーは、事業戦略を遂行する上での自組織のポスト・ポジションの構想と管理が必要となります。“戦略”に基づくものですから、構想と管理のスパンは単年度ではありません。中長期を見据えてのものになります。
中長期を見据えて、どんな役割(ポスト・ポジション)が必要で、そんな人材をいかに獲得していくか。今いるメンバーのキャリア志向を聴き、自組織の成長に手を貸してくれるのであれば、そのメンバーをどのように支援(業務のアサインや研修受講の推奨など)し、配置・処遇していくつもりか。メンバーと具体的な期待成果を合意し、いかに達成を支援していくか。成果をどう評価し、フィードバックするか。
こういったことを、ジョブ型のもとでは、ミドルマネジャー自身が考えなければなりません。

人事部門は、ミドルマネジャーがそういったことを思考する際のパートナーとして役立つ存在(なはず)です。
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高難度の業務をアサインする
マネージャーが組織としての生産性を上げるために、一般社員層のメンバーにどのように業務を割り振ればよいでしょうか。その論理は極めてシンプルです。コンプライアンスを遵守したうえで、「各メンバーの能力に応じて、遂行しうる最大限の難易度の仕事を、最大量アサインすること」に尽きます。(135~136ページ)
できるだけ少ない資本と資源で最大限の成果をあげるのかを「マネジメント」と定義するならば、ミドルマネジャーは1人ひとりのメンバーに最大限の成果を要求する必要があります。(もちろん、チームとしての成果を最大化するために相乗効果や補完関係をデザインする必要もあります)
上記しましたように、ジョブ型では「やって当たり前」の人に役割を任せますので、「やって当たり前」の成果を出しても「中」の評価なんです。最大限の高難度の、最大量のアサインをこなしたとしても、「中の上くらい」の評価です。一段上の役割を果たすくらいの成果を出したときに高評価となります。

ミドルマネジャーの皆さん、評価の物差しを間違えないでください。職能資格制度の思考のまま、目標設定するとおかしなことになります!
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目標の連鎖は必須。ボトムアップの意味をはき違えてはいけない
ジョブ型人事制度の場合に限らず、人事評価の機能は、4つあります。①組織目標との整合、②職務遂行状況の把握、③人材情報把握、そして、④給与・賞与査定です。(179ページ)
人事評価と聞くと、③と④を想像しませんか?

今まではそれで何とかなっていたかもしれませんが、「ジョブ型」のもとでは、それではダメです。
特に、「①組織目標との整合」がものすごく重要です。

私は大丈夫だよ!
と言い切れるマネジャーはいらっしゃいますか?以下の図のような組織をよく見ますよ。

管理職までは「挑戦的な、しんどい目標」を背負っているのに、メンバーたちは「現状維持的な目標」を設定している組織・・・・・・目標が連鎖していない状態です。
ほかにも、こんな組織もありますね。

上位目標と関係のない目標を設定しているケースです。
「部下のモチベーションを考えて、部下自身に目標を決めさせている」というミドルマネジャーさんがいますが、ボトムアップの意味を誤って理解していますね。
また、上位目標に関連した目標であっても、求める水準を部下に任せて設定させると、下図のようなことが起こります。(多くの部下は、低めに目標を設定しようとしますので)

こんな状況だと、部下はみんな目標達成しているのに、課の目標が未達成という、おかしなことが起こります。
何をやるか(WHAT:項目)、どれだけやるか(HOW MUCH:水準)はトップダウンが基本です。どのようにやるか(HOW:方法)を部下自身に考えさせ、本人に決めさせることは大切ですが・・・。
組織目標との整合は、人事評価のための重要ポイントです。3月決算の会社であれば、もうすぐ目標設定の季節ですね。目標設定は、事業戦略を遂行するために自組織として取り組むことをかみ砕いて、部下にWHATとHOW MUCHをおろすことです。(なぜやるのか(WHY:背景・理由)を伝えることも忘れずに)

ジョブ型であろうがなかろうが、これは組織マネジメントの基本中の基本です。
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今回紹介しました本の著者の藤井さんは、私が以前にいた会社の同僚で、人生の先輩です。
藤井さんの前著『人事ガチャの秘密』も面白いです。人事部門の方以外でも、サラリーマンを続けるなら知っておきたい内容が書かれています。

なお、本の宣伝を依頼されているわけではありません。
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