近年、組織の不正・不祥事がニュースで取り上げられています。不正や不祥事がどうして起こるのか、どうすればそんなことが起こらずに済むのか、そのあたりに興味があり、以下の本を読んでみました。
中原翔 著 『組織不正はいつも正しい ソーシャルアバランチを防ぐには』光文社新書(2024)
著者は、立命館大学経営学部の准教授。(なんと、私と同じ鳥取県生まれ!)
この本には、実際に起こった組織不正の事例をもとに、社会的雪崩(ソーシャルアバランチ)という独自概念を用いて、不正の発生した原因を整理し、不正を防ぐためのアイデアが書かれています。
社会的雪崩(ソーシャルアバランチ):
個々人が「正しさ」を求めるがあまり、それが積み重なることによって、個人のみならず、組織や社会などの全体が沈んでいく現象(190ページ)
私の感想は以下の2点です。
①組織不正が発生した原因の分析を、該当組織に閉じず、社会にまで広げて考えていることに意義を感じるが、それゆえに、組織不正を防ぐための対策が「組織内の多様性を向上させること」だと弱く感じられた
②同様のテーマに関してパーソル総研さんの行った調査レポートのほうが、スコープに「社会」は入っていないが、複眼的でリアルな組織の実態を感じられた(→ パーソル総研さんの該当サイトへ)
今日は、この本から得ましたマネジャー向けの検討ポイントを2つ記述します。
*************
経営資源を時間化すること
東芝で起こった不正会計問題を題材に、基本的な経営資源である「ヒト、モノ、カネ、情報」に関して、こんな記述がありました。
東芝の不正会計問題が私たちに教えるのは、これらの経営資源を適切に時間化していくことの大切さであり、さらに時間化することが他の人々にも共有されていることの大切さだと言えます(107ページ)
東芝の不正会計問題は、とりわけカネの問題として考えることができます。利益(=カネ)をどれくらいの時間で生み出していくのかについて本社と子会社が異なる立場に立ってしまい、それを共有できていなかったと考えられるのです(108ページ)
この本では、”組織不正”を論じていますが、経営資源の時間化と、それを他者と共有することは通常のマネジメントにおいても重要なことだと思います。
少し前にこのブログで「ビジョンには時間の概念が必要」と書きました。(→ 当該のブログへ)
掲げているビジョンは、いったい何年後に実現しようと思っているのか。
ビジョンを〇年後に実現するために、経営資源に関して、
*必要な資金(カネ)を、いつ、どうやって用意するのか
*どんな商材(モノ)を、いつ、どうやって市場に出すなのか/どうやって売るのか
*どんな人材(ヒト)を、いつ、どうやって用意するのか
といったこと、つまり戦略を具体的に考えられるようになります。時間の概念のないビジョンでは、掲げられた戦略はだらしのない、ゆる~いものにしか見えず、当然ビジョンの実現可能性は不明です。そんな戦略、部下を始めとした関係者と共有しても大して意味はありませんね。
組織不正に関係なく、時間の概念(特に中長期的な時間軸)はマネジメント要素に必ず入れないと、いい組織運営はできないですね。
*************
やっぱり多様性か・・・
本の中で、女性役員と銀行不正の関係を明らかにした、バーバラ・カスさんの研究結果を紹介しています。
女性役員の割合が多い企業の方が、不正行為に対する罰金額や頻度が減っており、平均して年間748万ドルを削減している(214ページ)
カスの研究から分かるのは、取締役会において男性中心の構成になっている場合、そこで形成される「正しさ」も単一的=固定的なものになりかねないという意味での警鐘であり、そうした単一的=固定的な「正しさ」が組織不正につながりやすい結果かと思います(216ページ)
多様性(のなさ)と組織不正の関係性・・・・・、なんとなくそうだろうなぁ、と思います。
カスさんの研究結果は、上述しましたパーソル総研さんが行った調査結果とも符合しています。それは、「人材が多様であればあるほど、主な不正発生の要因である「属人思考」、「不明確な目標設定」、「成果主義・競争的風土」にマイナスの影響を与えている」というものです。
少し前のブログで書きましたが、多様性の欠如した組織(例:転職経験のない日本人男性の集団)、つまり同質性の高い組織が自ら作り出している負の側面にはどのようなものがあるのか、(経営者もそうですが、)マネジャーは自分事として真剣に考えないと、今日もきっとどこかで企業価値の向上とは逆の意思決定をしているのかもしれません。(→ 当該のブログ記事へ)
*************
最後に
組織不正を起こした組織は、再発防止策として「全社員に研修の実施」を挙げがちです。私はそのたびに、
どうせ1度だけ(形式的に)実施して終わり、なんだろうなぁ
と思います。そして、組織不正という問題を、
組織開発でいうところの「技術的問題」と捉えているんだろうなぁ
とも思います。
最近、役員のスキルマトリックスを公開している企業がありますが、カテゴリーとして「人材戦略」や「人材マネジメント」といった項目に「〇」の付いている人物の中に、「人材開発・組織開発」に関してちゃんとした専門性を有した人がどの程度いるのでしょうか。
専門性を有していれば、組織不正のような粘着性の高い問題が、「1回だけの研修」や「技術的問題」への対処だけで解決するわけがないというのは分かると思うんですけどね。(予算の問題??)
最後は、本の感想とは関係のない話になりましたが、組織不正を防ぐにも、やっぱりマネジメントの基本をしっかりと実践しましょう、ということに行き着く気がします。
コメント欄