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読書感想(24-10):「叱れば人は育つ」は幻想

man in yellow crew neck t shirt pointing a finger 図書館
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部下からハラスメントだと訴えられることを恐れ、ビジネスの現場では、上司が部下を叱ることが減ってきているのかもしれません。

実際に叱ることが減ってきているのだとしても、上司が部下に対して、

といった場面は結構あるのではないでしょうか。今日は、そんなマネジャーの皆さんに紹介したい本があります。

村中直人 著 『「叱れば人は育つ」は幻想』PHP新書 2024年

この本には、著者の村上氏と4名の識者との対談の様子が書かれているのですが、「叱ることは部下の成長のために必要だ」、「叱られないと人は変わらない」といった考えはどうやらナンセンスなようです。

臨床心理士である著者が、脳のメカニズムをもとに以下のようにおっしゃっています。

著者
著者

「叱る」という行為の本質は、叱られる人のネガティブ感情による反応を利用することで、相手を思う通りにコントロールしようとする行為(25ページ)

脳のメカニズムは大人も子どもも基本的には変わりません。つまり、年齢に関係なく、人間という存在は叱られることでは学ばないし、育たないのです(26ページ)

以下は私の感想です。

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「前さばき」「後さばき」

こんなことが書かれています。

著者
著者

「前さばき」をしていないから「後さばき」の量が増え、「後さばき」ばかりしているから忙しくて「前さばき」ができなくなっています(194ページ)

「前さばき」派の人が正当に評価されるのは難しい。予測力が働いているからトラブルに遭遇することが少なく、仕事がスムーズに進みやすい(198ページ)

man wearing black polo shirt and gray pants sitting on white chair
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前職のコンサル時代から思っていたのですが、国内の大手企業で行われている目標管理(MBO)の運用について、結構多くの場合で、従業員の「目標設定が甘い」「目標設定がいい加減」「目標が抽象的」といった状況なのではないかと思います。つまり、「前さばき」に問題があるのではないかと。

そんな状態だと「後さばき」に時間がかかり、最終的には「評価がやりづらい」「部下に明確なフィードバックを提供できない」「評価で部下を納得させられない」という不具合が起こることになります。

「評価が難しい」と嘆くマネジャーは結構多いと思いますが、その原因の一つに「前さばき」のいい加減さがあることを自覚しているマネジャーは意外に少数だと感じます。

”叱る”に話を戻しますと、「前さばき」、具体的には目標設定を丁寧に行っていないから、あとあとで不具合やトラブルが生じ、部下を叱らないといけない(叱りたいと思う)事態が生じるというわけです。

また、

著者
著者

「後さばき」のうまい人は、自分はうまく処理できるから、「こうすればうまくいくのに、なぜできないんだ」とか「どうしてこれがわからないんだ」と、自分の考える「あるべき姿から逸脱している」人や状況に対して、不満や苛立ちを感じやすい(199ページ)

現実的マネジャー
現実的マネジャー

でもさー、「前さばき」でどんなに丁寧に話し合っても、物事がその通りに行くことはないよ。だから、話し合うだけ無駄じゃないの?

著者
著者

努力とトレーニングが重要(214ページ)

この点に関しては、昔から言われている「PDCAの習慣」があればいいんだろうなと思います。

「前さばき(=事前に話し合ったこと)」がどれだけ機能したのか/していないのかを、まめに、そして丁寧に振り返る習慣を持つことです。そうすることで予測精度が増していけば、叱りたいと思う場面が減ってくるというわけです。

叱ること、叱りたいと思う気持ちを捨てるためにも、これまで以上に「前さばき」、つまり目標設定や事前の話し合いをこれまで以上に丁寧にやりませんか。

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叱ること=厳しくすること・・・この考え、間違いです。

著者の前著『〈叱る依存〉が止まらない』紀伊国屋書店 2022年 に書かれているようなのですが、

著者
著者

『厳しさ』の本来的な意味とは、『妥協しない』ことや、『要求水準が高い』ことだからです。要求水準を高く保つことは、相手にネガティブな感情を与えなくても可能です

前述した「前さばき」と関連しますが、まずは部下の目標設定の段階で、高い水準の目標を設定するように部下と話し合うことです(高過ぎてはいけませんが)。そして、その水準を達成するために妥協しない(妥協を許さない)ことが、本来の『厳しさ』ということです。

そう言うと、こんな反論がありそうです。

悩めるマネジャー
悩めるマネジャー

部下が高い目標水準を嫌がるんだよなぁ (理由:未達だったとき、評価が下がるから)

そもそも、マネジャー自身の目標(部や課の目標)が高い水準であれば、部下も当然高い水準の目標になるはずです。部下がそれを拒否すれば、マネジャー自身の目標(組織目標)が未達になる可能性が高まり、ひいては他メンバーにもネガティブな影響が出かねません。

部下が嫌がるからといって、部下の目標水準を下げる(=達成が容易なものにする)ことを許すということは、マネジャー自身の目標がそもそも大して高くないということなのでしょうか?あるいは、部下が拒否した目標をマネジャー自身が被っているのでしょうか?

いずれにしても、マネジメント上、健全な状態ではありませんね。

上述したように、期中や期末で部下を叱るのではなく、「前さばき」として、高い水準の目標を設定し、「後さばき」としては、部下自身が主体的に取組み、目標達成できるように、最後まで妥協することを許さず、部下にしっかり寄り添いながら支援する・・・・・これが正しい「厳しさ」であって、「叱ること」が「厳しさ」ではないということですね。

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今日の感想をまとめますと、こんな感じでしょうか。

(現状)    「前さばき」への注力 < 「後さばき」への注力
(理想の姿)  「前さばき」への注力 > 「後さばき」への注力

(現状)    厳しさ=叱ること  ※最悪なのは怒鳴ること
(理想の姿)  厳しさ=高い目標を設定すること + 妥協を許さないこと

応援団長
応援団長

叱るって、叱る側も疲れますよね。もう止めて、正しい「厳しさ」で部下に接しましょうよ。