マネジャーに対する研修の企画で、「これはひどい!」と思ったリアル話。
不透明、不安定なビジネス環境下で、人は働いている。
働く理由が、「会社の成長・発展のため」ではなく「お金」や「生活」のためであったとしても、手を抜いて仕事をやっている人はそんなには多くないのではないか。
ミドルマネジャーも、上から・下からの圧力や膨大な業務量に圧倒されながらも、日々あくせくと働いている。
そんなマネジャーを、たった1年足らずの見極め期間で降格させようと画策している組織がある。
背景には、ビジネス環境の大きな変化があるらしい。グローバル化のうねりの中で、組織を変えていかねばならない。マネジメントがその先陣を切っていかねばならない。
だから、ミドルマネジャー(今回のターゲットは課長クラス)を、この1年間徹底的に搾り上げて、ダメな人は降格させるのだ、人事トップのAさんという。
更にAさんは、「いまの課長は、指示命令型の組織風土にどっぷりと染まっていて、部下の自律性ややる気を引き出すマネジメントができていない。こんなマネジメントではこの会社がダメになる」とも言っている。
このセリフを聞いて、
*なんで課長なんだ?
*まず変わるべきはもっと上のマネジメントなんじゃないのか?
*そもそも、あなたのその考えが指示命令型なのでは?
と私は思った。
10000歩譲って、課長を今回のターゲットとしたとしても、1年間足らずで行動変容させることなどできるのか? そして、最終的にどんな観点で降格する人/しない人を決めるのか?
実現可能性が感じられない企画である。
Aさんの話を聞いていると、降格させたいマネジャーには既に目星をつけているような感じである。要は、この取り組みを降格の理由にしたいだけのような印象を受ける。
Aさんは数年前に外部から採用された人物で、私には、今回の取組で成果を出し、上層(社長)へアピールしたいのではないかと見えてしまう。邪推かもしれないが。
ちなみに、この会社は外資ではない。純・日本な会社である。
この会社のことはまだ知らないことが多いが、関係者に話を聞いてみると、どうやらのんびりとした社風で、和を大切にする人たちが多いらしい。上からの指示に従い、役割を真面目に果たす組織風土。
Aさんの横に座っているメンバー(数名)も、そういった印象の皆さんで、この上司には逆らえない/逆らわないという様子がありありと見受けられる。
最近、どうやら今回の企画が経営会議を通過したらしい。
年内に降格判定をし、該当者は来年に課長を降ろされるようだ。
真面目な社風と聞いている。課長の皆さんは誰一人としてふざけて仕事をしていないだろう。マネジメントに関して課題はあると思われるが、彼らなりに日々頑張っている。
だから思う。この企画には無理が多すぎる。
判定基準はどうするのか?
組織成果はマネジメント行動以外にも様々な要素が絡み合って創出されるので、組織成果だけを降格基準にして降格判定を出すのはナンセンス。
では、言動で判定するのか?
長年の勤務で染みついた考え方や行動を、1年足らずで簡単に変えられるものではない。
誰が判定を下すのか?
上司である部長が課長の言動を見て判定するとしても、失礼ながら、部長は「課長の理想的な言動」を理解しているとは思えないし、課長が部下に対してどのような言動を発揮しているのかを日々見られるわけではない。
リモート環境下にあるのであればなおさらだ。
部長だって、「自分だってちゃんとマネジメントできていないのに・・・」と引け目があれば、なおさら客観的な判定はできないはずだ。
このような点を考えると、この企画は1年足らずで結論を出す取組みではない。入念な仕掛けや綿密な計画、有益な学びの場の設定、丁寧なフォローアップ方法など、考慮すべき点はたくさんある。
こういったことをこちらから伝えても、聞く耳をもたないAさん。
やはり、社長などに大口を叩いているから、後に引けない状況なのであろう・・・。
相手の考えが変わらないなら、この件から手を引くべきだと私は思っている。なぜなら、この案件は
うちの会社の理念やビジョンに照合して合致しない
から。
この会社のウェブサイトを見ると、立派な理念や社是がある。人材育成に関しても立派な方針が書かれている。それと照合すると、今回の企画は明らかにズレている。
こんなボロ企画は、課長も、会社も、支援する外部企業も誰ひとり幸せにならない。
最近話題の ”ウェルビーイング経営” とは逆行している。
これまで20年以上、この仕事をしているが、今回のような案件にたま~に遭遇する。
大抵の場合、クセの強そうな人物(狼)が存在する。そして、その周りには反論しない人たち(羊の群れ)がいる。
この会社の人事部は、価値観の多様性が全く発揮されていない。Aさんの意見があるだけだ。心理的安全もない。組織パフォーマンスが低い典型例だ。
組織で物事を討議したり判断したりする際に、ウェブサイトに載っている理念、ビジョン、行動指針など、経営上で基本、かつ大切な要素が判断軸として全く活用されていない。
大事な話し合いであればあるほど、これらの要素をテーブルの真ん中に置いてやりとりすべきである。
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