多くの企業で、ジョブ型の人事制度への変更に伴う施策が検討・実施されている。私の勤めている会社へも関連する相談がたくさん来ている。
私のところへも複数のクライアントから「ジョブ型への制度変更に伴い、マネジャー教育を見直したいので相談にのってほしい」という依頼がきている。
個人的には、ジョブ型であろうがメンバーシップ型であろうが、マネジャーに求められる要件・能力に大きな違いはないと思っている。
ただし、人材の育成やキャリア支援は相当にきちんとやっていく必要はあるだろう。
ジョブ型に関する本の感想は、このブログでも2冊紹介している。
(読書感想『人事の組み立て』)
(読書感想『日本型ジョブ型雇用』)
今回読んだ本は、ジョブ型を制度面から説明しているではなく、先ほど述べた人材育成やキャリア支援のポイントに関して、他社事例を入れながら説明している。
以下の本である。
内藤琢磨 編著『ジョブ型人事で人を育てる』中央経済社 2022年
個人的には、シーメンス社の事例はおもしろかった。以下に、感想を3点記載する。
①リスキリング
最近よく聞く言葉だが、リスキリングとは
職業上今後必要となるスキル・技術を再教育で身につけさせる/獲得すること
で、従来のスキル習得との違いは、リスキリングは「現職と異なる職種へのジョブチェンジを目的としした教育学習」で、従来のスキル習得は「現職のステップアップや業務効率改善等を目的とした教育学習」である点。
リスキリングは、グローバルでは人材育成の潮流となっているらしい。
DX化により、仕事が大きく変わってきている中で、人によっては仕事がなくなる可能性だってある。
アメリカであれば、不要になった事業や仕事を売ったり、なくしたり、人材を解雇することは可能だが、日本ではそんなことはできない。
そうなると、従業員には必要とされる仕事への転換を図ってもらわなければならない。
この本の中に書かれている海外企業の例を読むと、国内企業はリスキリングに関する十分な支援策をまだ用意し切れていないような印象。
とはいえ、現場のマネジャーは、少し先の将来を見据えて、今から磨いておいた方が良いスキルや、積んでおいた方がよい経験を、部下と話し合って、考えておいたほうが良いだろう。
将来のことは誰だってわからない。想像でも良いので、健全な危機感を持たせることと、何かしらの行動を起こさせることが大切だと思う。
②現代の若者は直線的
著者によると、現代の若者は、昔と比較するとキャリア志向が直線的。
昔の若者は、将来やりたいことがきっとかなうと信じて、”雑巾がけ” も厭わず、その時を待っていた。いまは違う。「やりたいこと」に向けて、一定程度のリスクも取ってチャレンジもするし、組織への主張も行う。
そして、大企業でしかできないことが少なくなってきている。つまり、大企業・有名企業に勤務し続けることのアドバンテージやベネフィットが減ってきている。
マネジャーとして、そんな彼/彼女らとどう向き合うか。
つぶやき:
個人的には、「やりたいこと」をそんなに早い時期に見つけられる人なんて、一部なのではないかと思う。
キャリアの大家、E.シャイン先生がおっしゃるように、自分のキャリア上大切なもの(キャリアアンカーと呼んでいる)を見つけるには、10年くらいかかるんじゃないのかと思う。
つぶやき:
仮に「道を見つけた」としても、あまりにも早いうちから進む道を狭めてしまうことで、潜在可能性を小さくしてしまうのではないか。20代のうちは、視野を広げるような問いを投げてあげることもマネジャーの役割なのではないか。私見。
③ストレッチな目標の付与
本の中で、ジョブ型人事のもとで、マネジャーには「学びのカルチャー醸成」が求められると書かれている。
その中の一つに、「リスキリングが必要なストレッチ目標の付与」という項目が書かれている。
部下一人ひとりに、リスキリングが前提となるようなストレッチしたジョブを「業務目標」として与えて、目標達成のために必要なトレーニング機会を重点的に与えることが重要とのこと。
現在の延長で思考するのではなく、自部署の将来のジョブを前提に業務目標を立てること。
ストレッチ目標を立てる際に、それを加点的な評価項目として扱ったり、できなくても減点はないという扱いをしてしまうとダメと書いてあるが、確かにそれだと、部下は目標にチャレンジしないだろう。
明確な業務目標として、緊張感をもって部下育成をすることがマネジャーに求められるようである。
つぶやき:ストレッチ目標を与えるマネジャー側にも相当の覚悟が必要。
とはいえ、会社として ”キャリア自律” が風土として確立しないとジョブ型は機能しないので、マネジャーの責任も重要だが、本来は部下自身がキャリア形成と向き合わないといけない。
この本でも言っているが、ジョブ型を「人件費の抑制」目的で導入すると失敗する。社員一人ひとりの「キャリア自律」があってこそのジョブ型である。
そして、ジョブ型への移行は人事マターではなく経営マターである。
なんでもかんでもマネジャーに「あとは頼むぞ!」と言わんばかりの投げ方は止めて、経営と現場のマネジャー(+人事やHRBP)が一体となって進めないと絶対にうまくいかない。
この本を読んで、改めて思ったことである。
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