前回のブログで、部長と課長の役割の違いを書いた。(前回ブログ)
書籍(伊丹敬之 著『経営を見る眼』東洋経済 2007年) を参考に、マクロのマネジメント、ミクロのマネジメントという分類を紹介した。
本の中では、「組織の階層が上がっていくに従って、ミクロだけのマネジメントからマクロマネジメント中心のマネジメントへと転換が求められる」と言っている。
課長から部長への移行期は「ミクロのマネジメント」中心のマネジメントから「マクロのマネジメント」中心のマネジメントに変わる大きな転換点
である。
課長から部長になる際は、思考を大きく変えなければならない。
今回は、その「マクロのマネジメント」についての話である。
上記書籍の中で、「マクロのマネジメント」とは、仕事の「枠づくり」のマネジメントであると言っている。
伊丹先生曰く、以下の 5つの ”枠” を用意すること。
1.事業の枠(戦略)
2.仕組みの枠(経営システム)
3.プロセスの枠(場)
4.人の枠(人事)
5.思考の枠(経営理念)
つぶやき:
”枠” を決めることは本当に重要だ。「すべてに関してご自由にどうぞ」と言われるとかえって動きづらい。リソースの無駄遣いも生じる。一定の枠の中で「ご自由にどうぞ」と言われるほうが動きやすい。効率も高まる。
部長の枠づくり、もう少し具体的に
1.事業の枠 をつくる
”部長は上位組織(会社や事業部)の戦略を受けて(咀嚼して)、自部の戦略を策定することである。
上位組織の掲げるビジョン・目標を達成するために、部として 何に注力するのか/しないのか を考える。資源(ヒト・モノ・お金・情報)の配分を決める。
これまでに様々な組織(部)の「戦略」を見せてもらったが、その経験から注意したほうが良いと思われる点は2つある。
注意1.ビジョンや中期目標を意識した戦略になっているか
SWOT分析などの手法を使って戦略を考えるとき、ビジョンや中期目標の存在を忘れた状態で、戦略を考える人がいる。それでは意味がない。
戦略は、ビジョンや中期目標を達成するために存在するのだから。
注意2.結果のために「やれることは全てやる」的な戦略になっていないか
これは戦略とは言えない。すべてが半端に終わる可能性大だ。
有限なリソースの、効果的な配分。欲張らない。
2.仕組みの枠 をつくる
戦略が決まれば、効率と効果を考え、誰にどういう役割・責任を委ねるかを決め、事がうまく回るような仕掛け、仕組みを用意する。組織・管理体制づくりと役割分担である。
マネジメントとは ”複雑性への対処” と言われることがある。
仕組みを整え、いちいち伺いを立てなくても良い状態を作ること。上司に相談するのは非常時対応のみ。これがマネジメントが機能している理想の姿である。
どうすれば戦略に関連する情報が部内でスムーズに巡り、メンバーが自律的にPDCAを回せるかを考え、決める。
つぶやき:
『戦略と実行』という本の中で、「(業界が同じであれば)どこの組織も似たような戦略を打ち出している。差を生んでいるのは、その戦略を実行しているかどうかの違い」と言っている。戦略の実行管理体制(仕組み)は差別化要因である。
清水勝彦 著『戦略と実行』日経BP 2011年
3.プロセスの枠 をつくる
戦略を実行するうえで、部内の誰と誰が交流することで、相乗効果や補完関係が生まそうかを考え、そういった場(リアル、デジタル空間)を用意する。
つぶやき:
仕組みの枠を「タテの影響」を健全にする、プロセスの枠は「ヨコの影響」を潤滑にする。そのコーディネーターが部長と言える。
4.人の枠 をつくる
いわゆる ”人事” のこと。1~3で決めたことをやり切るのに、誰に委任するか。具体的には、誰を課長にするかを決める。
戦略の実行にとって課長の存在はものすごく大きい。部長の考えた ”枠” を生かすも殺すも課長次第だ。
世の中の多くの課長は、優秀なプレイヤーであった人たちだ。しかし、優秀なプレイヤーが優秀な課長であるとは限らない。優秀過ぎて部下をつぶしてしまうような課長もいる。
つぶやき:
部長は課長をみるときに、短期業績だけに目を奪われないこと。戦略実行の観点から、課長の強み・弱みを理解し、コーチングやフィードバックを提供することが必要である。
5.思考の枠 をつくる
経営理念や行動指針を部内に浸透させることである。
私の知っている限り、ほぼ100%の会社に理念はある。ボランティア組織にだってある。なのに、浸透している会社は多くない。
マネジャー研修で会う人からは「理念?そんなものに意味あるんですか?」と言われる。
私の結論:ある。これからの時代、相当に意味がある。
理由を2つ挙げる。
5-(1) 多様化への対応
現在、働き方や価値観の多様化が少しずつ大きくなってきている。これらは組織にとって、いわば ”遠心力” になり、全ての多様性を認めていたら組織は分解し、組織力が低下する。
分解を避けるためには ”求心力” 、いわば組織運営の軸が必要。その軸が理念や行動指針である。
「色々と考えるのもOK、やるのもOK、ただし、ココからは絶対に逸脱しないでくれ」というときの ”ココ” が組織の分解を防ぐ、組織運営上の軸になる。
つぶやき:軸のない多様性対応は、組織を破滅させる。
5-(2) 働きがい、エンゲージメントの向上
昔と違い、いまどきの人はお金や地位のためだけに働かない。私は仕事で大学生と接しているが、彼/彼女らはまさにそんな感じである。
彼/彼女らは自己成長や働きがい、社会貢献を働くことに求めている。
本来、全ての企業は社会や顧客に貢献してるはずである。必ず誰かの何かに役立っている。それを表現しているのが理念である。(理念は存在意義を表現している)
シニア層と言われている人たちは、”働かないおじさん” などとレッテルを貼られているが、彼らだって誰かの役に立ちたいと思っている。
つぶやき:お金だけでは動機づけができない時代。若者やシニアへの動機づけとして、理念日々のマネジメントに活用する。
まとめ
部長は、メンバー個々とのコミュニケーションを通して部門運営する人ではない。
再度記載するが、以下の 5つの ”枠” で部門運営をする人である。(本の中では、伊丹先生は「部長」と限定はしていない)
1.事業の枠(戦略)
2.仕組みの枠(経営システム)
3.プロセスの枠(場)
4.人の枠(人事)
5.思考の枠(経営理念)
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参考書籍:伊丹敬之 著『経営を見る眼』東洋経済 2007年
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