今回は『失敗しない人事制度の運用のしかた』という本を読んでの感想を書きますがーーーーー、
現場で活躍するミドルマネジャーの皆さん、本のタイトルを見て、
私には関係ない本だな
と思わないでください。
小林・山田・野崎 著『失敗しない人事制度の運用のしかた』ディスカバービジネスパブリッシング 2023年

大いに関係あるんです。この本には、皆さんが組織や人材をマネジメントするうえでのヒントが満載なのですよ。
今回はそのあたりのことを書きます。
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ミドルマネジャーの皆さん、自社の人事制度にどの程度精通しているのでしょうか。人事社員でも、精通していると言い切れる人は多くないと思います。(まずいですね・・・)
そもそも、組織における“人事”の機能は、
経営戦略を実現するために、人材の質と量を最適化すること
が最終目的(10ページ)です。そのために、社内共通の仕組みやルールとして人事制度が制定されています。
そんな中、人事側から見ますと、人事制度(の中でも、目標管理制度の)運用にまつわる課題として、以下のようなことが本に書かれています。(21ページ)
1.そもそも人事制度が従業員に理解されていない
2.目標設定面談をしていない
3.目標の記載内容に具体性がない
4.評価フィードバック面談をしていない
5.評価にメリハリがつけられない
6.評価者によって評価視点がバラバラ

一方、現場のミドルマネジャーの皆さんからしますと、
■ 人事がちゃんと説明してくれていないじゃないか!!
■ 質問しても明確な回答をくれないし
■ 「そこは現場で個別に判断して・・・」と、返事が曖昧だ

など、人事部門に言いたいこと、不平不満が結構あるのではないでしょうか。
このような状態は、世の中の多くの会社で起こっていると思われます。(→ 日経新聞さんのサイトへ「人事部に不満」9割)
このような状況は、組織にとっても、ミドルマネジャーの皆さんにとっても、従業員の皆さんにとっても、健全ではありませんね。問題の解決に向けては、誰かに任せるのではなく、皆がそれぞれの立場で何とかしていったほうが良いのではないでしょうか。
例えば、
★ 人事部門は、自社の人事制度に精通し、現場からのどのような質問にも真摯に、明確に、堂々と回答できるようになる
★ 現場のミドルマネジャーの皆さんは、自社の人事制度(特に目標管理制度)にもっと関心を持ち、制度を活用しながら組織を運営するようになる
★ 従業員の皆さんは、「何をすればこの会社では評価されるのか」、「自分の成長のために制度をどう使えばいいのか」をもっと考えて行動するようになる
といったことです。

以下に、現場のミドルマネジャーの皆さんがちゃんと理解・徹底したほうがいい、人事制度(の中でも、目標管理制度)の運用に関するポイントを書いています。
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上記しました、人事側からみた、目標管理制度の運用にまつわる課題に、“目標設定”に関するものが2つありました。
2.目標設定面談をしていない
3.目標の記載内容に具体性がない
現場からは“評価”に関する不平不満や難しさに関する声が聞こえてますが、
不納得の原因のほとんどは、もっと前の段階の目標設定の中に存在しているといえる(68ページ)
と書かれています。強く同意します。私も、多くの組織がその通りの状態だと見ています。
そして、本の中で、「なぜ目標設定がないがしろにされてしまうのか」について、要因を3つ書かれています。以下の通りです。
① 目標設定の前提となる、経営戦略や部門戦略が曖昧
② 期初に目標設定をしても、期が経過するに従って状況は変化するので、目標設定も頻繁に変えていくべきだという誤った認識
③ 評価にメリハリがつけられていないので、目標が達成されていようがいまいが、評価に差がつかない。それならば、目標設定を軽視してもいいだろうという理屈が成り立つ
これにも強く同意します。本当にあるあるですね。
現場のミドルマネジャーの皆さんは、まずは、目標設定に関する意識と理解を高め、上手に実践する必要があります。なぜでしょうか?
それは、経営戦略実現のために必要だからです。(それが人事制度の最終目的です。人事部門のための制度ではありません)
もし、部下を“評価”することに課題感を持っているのではあれば、まずは目標設定に関してちゃんと学びましょう。目標設定に関する具体的なHOWの説明はこの本の中にたっぷり書かれていますので、読んでみてください。 ※間接部門、バックオフィスの目標設定に関するヒントも得られます。

ちなみに、目標設定の重要性は、部下を「叱る」ことにも関係しています。以前に、このブログで紹介しておりますので、よろしければお読みください。(→ 当該ブログ記事へ)
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最後に。
本の中に、印象深い文章が書かれていました。
人事制度は全員を幸せにできるわけではないのも事実です(141ページ)

目標がないがしろにされる要因を上記しましたが、「メリハリのない評価」は、結局は誰も幸せにしません。
■ 評価が悪くならないようにと、自らの目標設定を甘めにしようとする部下の意向を呑んでしまう
■ 業績の悪かった従業員のモチベーションを気にかけ、評価を下げ(過ぎ)ないようにする
こんなことをやっていると、組織にとって中長期的にはマイナスの影響しか残らないでしょう。既にマイナスの影響が出まくっている会社もあるのではないでしょうか。

エンゲージメントの低い社員、挑戦したがらない社員の発生は、マイナスの影響の代表的な“成果物”ではないでしょうか。
経営戦略や事業戦略に則り、個別にちゃんと目標設定をしたうえで、成果を出した人を高く評価し、そうでない人は低く評価する。こういった当たり前のことができていない会社やマネジャーは、人事制度に問題があるのではなく、制度運用面に問題があることが殆どではないかと想像します。
そうなっているのは、決して人事部門だけの責任ではありません。私は、別に人事部門の肩をもっているわけではありませんが。

現場のミドルマネジャーの皆さんも人事制度(特に目標管理制度)にもっと関心をもち、正しく運用しましょう。そのうえで、運用上の不具合や難しさを感じたら、人事部門に申し出たらいいと思います。改善に向けて、建設的なやりとりになりますからね。
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