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サーベイ結果に対するズレた見方・扱い方

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エンゲージメントサーベイや社員意識調査などの組織サーベイをやっている企業があります。「日本の人事部」さんの調べでは、エンゲージメントサーベイを約4割の企業が導入しているようです。(→「日本の人事部」さんのサイトへ

サーベイを実施する目的は企業により様々なのでしょうが、サーベイをやった結果、目的が達成されているのかどうかにとても興味があります。

私の仮説として、多くの企業が 目的を達成できていないだろう とみています。実際に調査をしたわけではありませんが、これまでの経験から、この見立てにはまあまあの自信があります。

自信の裏付けとなる理由ですが、以下のような状況を多く見聞きしてきたからです。

▲ サーベイの実施目的が従業員に理解されていない(管理職ですら理解していない)
▲ サーベイ内容(調査項目)が実施目的と合っていない
▲ サーベイ結果を回答者にフィードバックしていない(サーベイ結果はマネジメント層だけが知っている)
▲ サーベイ結果に基づいた改善策を、一部の人だけ何とかしようとしている
▲ 何の変化も見られないのに、従業員は毎年同じサーベイに回答させられ、飽き飽きしている

いかがですか、皆さんのところの状況に該当しませんか?こんな状況では、どのような目的を掲げているとしても、それが達成されているはずはないでしょう。

組織サーベイを実施する目的は、上記しましたように様々だと思いますが、その目的が達成されない理由は、従業員の側ではなく、経営層と管理職層の側にあると断言しても大げさではありません。更に言えば、経営層や管理職層のある「ズレ」が影響しているのではないかと見ています。

今日は、その ズレを取り上げます。

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ズレ1:“ヨソ”との比較にどれだけの意味があるのか

南雲(2021)はこのように言っています。

同業界他社平均を過度に意識するのは得策とは言えません。他社と比較しても、採用で競合するなど同じ人材市場の中にあるのでもないかぎり、直接的な意味を持たないためであり、そして何よりも、比較対象のことを具体的にイメージできない場合には、比較結果からも漠然とした認識しか得られず、変革の力は得られにくいためです。(126ページ)

参考図書:南雲道朋 著『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』経営書院 2021年

サーベイの結果をやたら“ヨソ”と比較して、自組織のほうがスコアが低い場合に「なんとかせぃ!」と命令している経営層はいませんか?

その“ヨソ”が採用市場で競合するならまだしも、何ら関係のない他社や、同じ会社内の他組織との比較に躍起になって、何の意味や価値があるのでしょうかね?

応援団長<br>
応援団長

管理職層も従業員も感覚的に分かっています。「ヨソと比較して、なんの意味があるのか」と。でも、その声は決して経営層に届きませんし、言っても無駄だと思っていれば、そもそも声を発しませんね。

比較する価値があるのは、自組織の過去と現在です。過去と比べて現在はどうなっているのか、です。

さらに言えば、理想は、

という状態になっていることです。

意図した取組が何もないまま、またサーベイを行い、仮に結果が変化しても、それは「たまたまの結果」でしかなく、結果の振り返りをやったとしても自分事にならない(最悪、他責にして終わる)、空虚なものに帰すことになります。

他社と比べてどうだとか、自社内の他組織と比べてどうだとか言って、管理職層を叱咤激励するような経営層はナンセンスです。

正しいメッセージとしては、

経営陣
経営陣

ヨソの組織の結果はあくまでも参考にする程度でOK。大事なのは、自組織の前回・前々回の結果が今回どうなっているかということ。そして、組織コンディションを改善するために、この間に組織として取り組んできたことを皆で振返り、今回の結果がこうなった真の理由を皆で話し合って明らかにし、今後につなげてほしい!

といった感じでしょうね。ヨソとの比較、やめませんか?

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ズレ2:サーベイ結果が悪いから部下には見せない!?

サーベイは定期健康診断に例えられることがあります。定期的に診断することで、体の異変に気づいたり、早めに対処行動がとれたり、治療ができたりするわけですね。

確かに、血圧やコレステロールの数値には「良い/悪い」があります。しかし、それがあるからこそ、現状を理解でき、今後のことを考えられます。

エンゲージメントサーベイなどの組織サーベイも同じです。組織のコンディション診断です。が、その結果に「良い/悪い」という判断は不要です。

サーベイ結果を他組織として比較するから、結果に対して「良い/悪い」という見方が出てくるのでしょうか。あるいは、5段階で評価する場合、「3」が真ん中で、「4」「5」は良いといったパラダイムが影響し、●点だと良い/悪いという判断になるでしょうか。

大事なのは 自組織の結果の経時的変化 です。

今回のサーベイ結果がどうであれば、次回に向けて改善策を皆で考えて、取り組んでいけばいいだけの話です。にもかかわらず、

■ こんな結果、部下に見せられない。彼/彼女らのモチベーションが(ますます)下がってしまう
■ 自分のマネジメント能力の無さを公開するみたいなので、部下にサーベイ結果を見せたくない

と考える管理職が少なからずいます。

サーベイ結果を見せないことで、自組織のコンディションが良くなればいいのですが、そんなことは100%ありません。むしろ、悪くなるだけのことです。なぜでしょうか。

以下のような理由があるからです。

理由① 時間を使って回答したのに何のフィードバックもないので、会社・上司への不信感・怒りが募る
理由② 次回以降のサーベイで部下がまともに回答しなくなり、サーベイ結果の信憑性が下がる
理由③ サーベイ結果を公開している他部署の話を聞き、自分の上司への不信感が増す
理由④ サーベイにまともに回答しても何も変わらないと感じ、組織への貢献意欲が減る

いかがですか?サーベイ結果を公開しない管理職は、自分で自分の首を絞めているようなものです。

自組織を良くしたいと思っているのであれば、サーベイ結果はとても便利で有益なツールです。

サーベイ結果を皆で見ながら話し合う場をつくるからこそ、メンバー1人ひとりの見方や考え方を知れるきっかけになったり、相互の関係性を見直す機会になったり、ビジョンや戦略を実現するために何が必要かを皆で思考する時間を生み出せたりするのです。

仮に「悪い」結果だとしても、そのほうが話し合いが盛り上がるかもしれませんよ。

ガス抜きの効果になる可能性だってありますし、各メンバーの本音が聞ける場になるかもしれませんし、管理職として普段は言えないメンバーへの想いや熱いビジョンを語れる(メンバーに聞いてもらえる)チャンスかもしれません。

時間がかかるし、組織をまとめるのに少々手間取るかもしれませんが、管理職がちゃんと準備して臨めば、話し合いが組織コンディションにとってマイナスになることは全く無いと思います。そういったプロセスを経験することで、管理職としての経験値も能力もグッと高まります。

”ちゃんと準備して臨む”ためのノウハウが詰まった本を紹介しておきます。強くお勧めします。ご一読を。

推薦本:中原淳 著『サーベイ・フィードバック入門』PHP研究所 2020年

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応援団長
応援団長

サーベイ結果は組織マネジメント上の有益なツールです。上手に活用しない手はありません。サーベイへの見方を学び、正しく使えるようになっていきましょう!

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