各分野の専門家がプロジェクトとして集ったチームで行う組織開発の営みは、チームのリーダーもメンバーもそれを行う意義や必要性も感じやすいのではないでしょうか。
それと比較し、同じ職場の ”いつメン(=いつものメンバー)” での組織開発はどうでしょうか?こちらには ”いつメン” で行うからこその厄介さ がある気がします。
今回はそのあたりに関する私見を3点述べます。
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1.組織開発へのモチベーションが弱い
プロジェクトチームには明確な目的・目標があります。参加メンバーは、それらを実現・遂行するために集っているという自覚があります。
ですので、チームが結成されて間もない時期に、「来週、全員でチームビルディングのための時間を取ります」をいう言葉を聞いたとしても、メンバーはさほど違和感なく受け取るのではないでしょうか。(→ チームビルディングについて:HRプロさんのサイトへ)
それに対して、ミドルマネジャーの皆さんが “いつメン” に対して、「来週、チームビルディングのための時間を取ります」と言ったらどのような反応を示すでしょうか。
*はっ?何を急に・・・
*このクソ忙しいのに・・・
*何を今さら・・・
*年に1回だけ何かやったところで意味ねえよ
*今の状態で問題があるの? うちの職場はまあまあ仲良しじゃないか
こんな感じなのではないでしょうか。
今いる組織が本当に嫌ならば、辞めるか異動願いを出すかなどしているでしょうし、それでも現在の組織に居るということは「この職場に対して不満はなくはないけど、言ってもしようがないし」くらいのモチベーションがいいところかと。
”いつメン” たちと過ごしている「いつもの職場」に対する見方や、現状維持バイアスと言われるものが組織開発へのモチベーションを高めない要因になりやすいと考えます。(→ 現状維持バイアスの説明:グロービスさんのサイト)
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2.組織開発を行う目的・目標がおかしい
プロジェクトチームには、思考や価値観、仕事の進め方などが異なるメンバーが集いますので、プロジェクトリーダーはチームとしての運営の軸(目的・目標、共通ルールや行動指針など)を明確にし、マネジメントしようとしますね。
その「運営の軸」自体をリーダーが独断で決めるのではなく、メンバーとの対話を通して決めていくこともあるでしょう。このプロセス自体が組織開発ですね。
一方、“いつメン” での組織開発だとどうでしょうか。
チーム運営の軸(共通ルールなど)などを話し合うことはなく、事前に行われたサーベイ(従業員意識調査、エンゲージメント・サーベイなど)の結果を使って、“いつメン” での話し合いがいきなり始まります。 ※実は、チーム運営の軸(の無さ)がそのチームの病巣になっていることもある!
その際、本取組の目的は
サーベイのスコアを良くしましょう!
と謳っているケースが多いように思います。前述したプロジェクトチームとは様相が異なります。
残念ながら、「サーベイのスコアを上げること」が目的や目標になっている、この状況に違和感を抱いている従業員は意外と少ないと思います。
スコアが上がり続けても、組織の成果や生産性が上がっていなければ、「ゆるい組織」を作ったに過ぎません。
最近、多くの組織で行われている組織開発の様子は、個人的には「ゆるい組織」をわざわざ生み出そうとしているように見えて仕方ありません。
いや、うちの組織はそんなことはない!というチームも、せいぜい「組織風土の改善」くらいが目的・目標になっているのではないでしょうか。
先日のブログ(→ 先日のブログへ)にも書きましたが、全ての組織は会社の掲げるビジョンを実現するため、そして会社の掲げるミッションを日々遂行するために存在しています。それが組織開発の究極の目的・目標になるはずです。
ですが、実際はビジョンやミッション(やバリュー、行動指針など)が全く意識されない/取り上げられないで行われる組織開発が多いのではないでしょうか。
その裏には、会社や部門の掲げるビジョンやミッションがすっかり形骸化しており、壁に飾られているだけ/期初の方針資料にチラッと書かれているだけで、”いつメン” は誰も全く意識していない(自分の仕事に関係ないと思っている)。
だから、ビジョンやミッションに関連づいていなくても誰も気にしないのでしょう。そんな状態での組織開発にどれだけの価値があるのかと思います。
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3.パパっと風土改善しようとしている
プロジェクトチームは有期の取組ですので、組織開発のテーマとして「風土改善」のようなテーマは設定されませんね。対して、”いつメン” 組織開発では「組織風土の改善」がテーマに挙げられます。
では、「風土改善」をテーマとした組織開発において、“いつメン” どうしでの話し合いにどのくらいの時間をかけているでしょうか?「みんな忙しいから」という理由で、1時間程度で行っているという組織が多いのではないでしょうか。
“いつメン” どうしの日々のコミュニケーションが現在の組織風土を生んでいます。長い時間をかけて醸成されたものです。それを変えるための話し合いにたったの1時間を費やしたところで何が変わるのでしょうか。
そりゃ、変わんねぇーよな
“いつメン” どうしには ”いつメン” だからこそ、相手に対してレッテルを貼っている可能性があります。それを変えるのに1時間の中で問題点を挙げ、改善計画を立てる。たとえ、その計画をフォローアップしたところで、”いつメン” 間の関係性を変え、組織風土を変えていこうなんて無理ゲーなのではないでしょうか。
1時間しか取れないから1時間でやるしかない・・・。これは「組織開発」という、とても手のかかる、高度な営みをあまりにも簡単に考えています。
しかも、前述のとおり、「組織風土の改善」が最終目的になっているような話し合いでは、仮に計画通りに事が進んでも、「ゆるい組織」が出来上がるだけかもしれません。(極論、他社へ移ることのできない人だけが残留するような組織に・・・)
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ここまで述べてきましたように、私は “いつメン” での組織開発はかなり厄介だと思っています。でも、今の時代、とても重要な取組です。(→ 組織開発の重要性を書いているブログへ)
会社や組織の掲げるビジョン・ミッションを明示し、それを実現・遂行するために、組織のどんな点をどうやって変えていくのかを皆で考える。これ自体は必ずやるべき取組みだと思います。
”いつメン” 組織開発を機能させるためには、
1.経営や事業のトップが組織開発に本気でコミットする(各組織が時間をしっかり取ることを承認する)
2.ミドルマネジャーは、自組織のビジョン・ミッションをメンバーに真剣に語り、本気さを示す
3.ミドルマネジャーは、組織開発は自組織のビジョン・ミッションに関連した、必要な取組であることをメンバーに示し、合意を得る
4.組織開発を進めるには相応の時間が必要ということをメンバー全員が理解する
これらのことが組織開発の営みを始める前提だと思います。
更には、自分たちにとってしんどい(できれば避けたいような)計画を立てて実行する覚悟も必要です。例えば、
*各自が業務効率を高め、付加価値の高い業務に取り組むために、チーム全員が〇〇を受講・実践し、1年後に残業時間を✕✕時間以内にする
*会議の質を高めるために、議案提示者は会議2日前まで資料を全員に発信し、参加者は事前に読み込み会議時には必ずアイデアを出す
*グローバルでのビジネス展開を見据え、年度内にチーム全員がTOEIC▲▲点以上をとる
とか。
この30年を見ていると、楽そうな/無難そうな道を歩いていても明るい未来はないのかも、と感じています。
ゆるい組織開発からはゆるい計画しか生まれませんし、ゆるい計画を実践したとて、結局は殆ど何も変わらなかったというのがオチになることが目に見えています。
現在の ”いつメン” 組織開発は「なんちゃって組織開発」になりがちだと思いますが、皆さんはどうお考えですか?
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