2023年10月23日に書いたブログ(タイトル:人的資本経営をミドルマネジャーの身近に)で、
人材戦略(や人事関連業務)に関して、ミドルマネジャーの皆さんは今から関心をもっておいたほうがいいと思いますよ
と書きました。(→ そのときのブログ記事へ)
この点について、関連する文献を探してみると、以下の雑誌の中にありました。
日本労働研究雑誌 2020年12月号(NO.725) 特集:変化する管理職の役割と地位(→ 労働政策研究・研修機構サイト内の該当ページへ)
とても興味深い文献が複数ありました!
今回は、この雑誌に掲載されている文献を参考にしながら、ミドルマネジャーと人事関連業務の関係について私見を深めていこうと思います。
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まず、法政大学の坂爪洋美先生が書かれた「管理職の役割の変化とその課題 -文献レビューによる検討」を読みました。
坂爪先生は、管理職(=ミドルマネジャー)の役割に関する先行研究をレビューし、管理職の役割に
人事施策(※)の運用という役割が新たに加わり、人事施策の効果を左右する重要な存在とみなされるようになった
と述べられています。(→ 該当する文献へ)
※ ”人事施策” とは、採用・配置・育成・処遇・給与などに関すること
この文献は主に海外の論文のレビューを通じて書かれています。そのうえで、坂爪先生は「日本と海外とでは、文化やマネジメントスタイル等に違いが存在することから、海外の知見が日本にそのまま当てはまるとは言えない」としながらも、「管理職の役割をめぐっては、共通する変化や特徴が認められると考える」とおっしゃっています。
やはり、ミドルマネジャーに人事関連業務の役割責任がのしかかってくるのでしょうか。
そして、人事施策の効果的な運用に関して、先行研究(van Mierlo, Bondarouk and Sanders, 2018)をもとに、管理職への期待として以下の5点が書かれています。
1.従業員に自社の人的資源管理(≒人事施策)は一貫性しており、かつ策定者の間でコンセンサスが取れていると伝えること
2.自身と人事部との間で、自社の人的資源管理について共通理解をすること
3.人事施策の意図に忠実に運用し、意図された人事施策と従業員が認知した人事施策との間にギャップが生じないようにすること
4.人事施策の運用にコミットすること
5.人事施策に対する従業員の期待を調整すること
「同意」します。でも、これらの実現が相当に難しく感じられます。
私が難しいなと思ったのは、直感的な理由だけでなく、この雑誌(日本労働研究雑誌 2020年12月号(NO.725))の中に掲載されている別の文献の内容も踏まえてのことです。
その文献は、東洋大学の久米功一先生とリクルートワークスの中村天江氏の書かれた『日・米・中の管理職の働き方 -ジョブ型雇用を目指す日本企業への示唆』です。(→ 該当する文献へ)
その中にとても興味深いことが書かれていました。それは、以下のようなものです。
日本の管理職は、「従業員の一人である」と認識している割合が50.6%と、アメリカ22.4%や中国29.5%より相当に高い。対して、「経営の一員である」は、日本は49.4%しかないが、アメリカは77.6%、中国70.5%となっている。
日本企業の管理職は、アメリカや中国と違い、経営よりも従業員寄りの存在である。
とても興味深いデータです。
他にも、米・中の管理職と比較して、日本の管理職は
「会社に対する心理的な一体感を感じている」率が低い
「会社に対する心理的な距離をおいている」率が高い
というデータもありました。更には、別のデータからこんなことも述べられていました。
(日本の管理職は)会社への忠誠心は低いにもかかわらず、辞めたいとは思えず、もしくは、辞めたいとは思わず、会社に留まっているのである。
日本の管理職にこのような状態が存在するのであれば、坂爪先生が述べられた「管理職への期待」の実現は相当に難しい気がします。(久米先生・中村氏の文献は、坂爪先生のものと分析ソースが異なりますので注意する必要がありますけれども)
管理職が従業員寄りの意識を持ち、会社への忠誠心が低い状況下では、人事施策にコミットしたり、施策に関して、従業員との間で期待調整をしたりするなど、なかなかできない話ですね。
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では、どうすれば良いでしょうか。
久米先生・中村氏は、日本企業のマネジメントの現状を踏まえ、変革への推進力としてジョブ型雇用の導入に期待を寄せられています。
そして、「マネジメントを進化させることが不可欠」とし、「人材育成や評価、賃金制度、職務記述書の運用、更新、組織設計、人事システムの仕様など、マネジメントの基盤を再点検し、時間をかけて取り組んでいく」必要性も主張されています。
ここでまた「人材育成や評価、賃金制度、職務記述書の運用、更新、組織設計、人事システムの仕様など」という表現で人事施策の話が出てきました。
やはり、これからのミドルマネジャーにとって、人事施策への理解・習熟は不可避な気がします。
坂爪先生は、管理職の役割変化に伴う課題を解決するための今後の検討の方向性を幾つか述べられています。その中の1つに「管理職の役割の再定義」を挙げておられます。久米先生・中村氏は、「職務の明確化(=職務記述書の整備)」を別の観点(※書くと長くなるので省略)で推奨されています。
「これからの管理職の役割・職務」の見直しや整備は必須なんでしょうね。
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坂爪先生の文献と、久米先生・中村氏の文献を合わせて考えると、
*今後のミドルマネジャーにとって、人事施策の効果的な運用は大切な役割のひとつになる
*人事施策の効果的な運用のためには「ジョブ型人材マネジメントを取り入れること」と「職務の明確化」が有効
ということになるんでしょうかね・・・。
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今日は、少々堅くて、ややこしい話になりましたね。
読みづらかったらすみません。
変革を推進するために人的資本経営を謳い、ジョブ型人材マネジメントを導入する。それをうまくいかせるには、ミドルマネジャーの職務明確化(職務記述書の整備)と、ミドルマネジャーの人事施策運用力はクリティカルファクターである・・・現時点ではそう理解しました。
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