立教大学の中原淳先生と、私の勤める会社の研究員である小林さんが書いた本『転職学』を改めて手にしてみました。
”転職” を科学しているおもしろい内容です。
転職を考えている人、転職者を出したくない側の人たち、いずれに立場の人たちにも有益な内容が書かれています。
ミドルマネジャーの皆さんにとっても、部下をリテンションさせたり、自身のキャリアを考えるうえで参考になる内容です!
さて、この本の中にこんなFormula(公式)が出てきます。
Ⅾ ✖ E > R
Dは、Dissatisfactionの頭文字で、不満を意味しています。Eは、Employabilityの頭文字で、本中では転職力、外の世界で活躍できる可能性の高さと表現されています。そして、Rは、Resistanceの頭文字で、(転職への)抵抗感を表しています。
上の公式は、
所属先のどこかに不満を感じ、外でも通用できる自信があり、転職することへの抵抗感が低ければ、人は転職する
ということを表しています。まあ、肌感として納得できませんか。私はそう思います。
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マネジャーの皆さんにとって、部下は組織成果をあげるための大切なリソースです。できれば、部下には辞めてほしくないと考えるのが普通ですよね。人手不足の時代ですし・・・。
では、上記の公式をヒントに、マネジャーとして何ができるか/何をしたほうが良いのかを考えてみましょう。
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D(不満)に関して。
紹介した本の55ページに、転職につながりやすい不満のランキングが掲載されています。一般的に抱きやすい不満ではなく、”転職につながりやすい不満” としていることがポイントです。
不満ランキング上位10位までに、「直属の上司」に関連するものが4つ入っています。以下の通りです。
1位 直属の上司からのハラスメントがある
3位 直属の上司の態度が高圧的だ
7位 直属の上司が信頼できない
10位 直属の上司の指示や考えに納得できない
1位のハラスメントに関しては、当社が最近調査結果を公表しました。(→ パーソル総研の関連サイトへ)
ハラスメントは昨今うるさく言われてますので、注意しているマネジャーが結構多いと思います。例えば、「部下を飲み会などに誘わないようにしている」という人、いませんか。
そのような ”ハラスメント回避行動” により、部下は上司との距離感を感じ、成長実感を得られていないといった結果が出ています。
なんだか厄介ですね。
調査結果からは、ハラスメントがなく、部下が成長実感を得られるためには、マネジャーに有益なのは「傾聴行動」と言っています。
傾聴は、上記の3位・7位・10位の内容にも関連しそうですね。部下の話を聞き切ることが基本なんですね。
日常的な「傾聴行動」により、上記公式の「D」が解消/低減すれば、その部下は現在の所属先に居続けてくれる可能性が高まりそうです。
ちなみに、「D」が一時的なものだと部下が捉えれば、「これもしばらくの我慢だ」と考えるのだそうです。不満な状態がこの先もきっと変わらないだろうと捉えると「耐えられない」と思い、転職に至るようです。(ポイントは、この先も変わらないだろうという感覚があるかどうか)
そう考えますと、大企業だと人事異動がありますが、中小企業だと同じ顔触れということもあるので、直属の上司への不満が永遠に続く感覚に襲われるなんてことがありそうですね。
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次に、E(転職力、エンプロイアビリティ)に関して。
エンプロイアビリティとは、”よその会社でも通用する能力”と言い換えられますので、聞こえはいいです。そして、多くの企業(特に大手)では、昨今 ”キャリア自律の促進” と称して、エンプロイアビリティを高める施策に懸命に取り組んでいますね。
ということは、今の会社の動きは、E(転職力)を高めようとしていることになりますね。このままでは、今いる従業員が出て行ってしまうのでは・・・・・?
パフォーマンスの低い(給料をもらいすぎている)従業員に関しては、会社はそれを狙っているという面もあるでしょうね。(リスキリングして、他へ出て行ってねと。)
そうでない従業員(優秀社員、若い人材など)は、会社にとどまり続けてほしいので、そのために人事制度(ジョブ型導入、ワークスタイル変革、公募制の拡大、地域別・職種別採用、管理職登用の条件変更、新卒給与のアップなど)を色々と変えていますね。
では、マネジャーとして、部下のキャリア自律支援をしながら、何ができるでしょうか。
会社の用意している制度を上手に活用しながら、この会社や職場で働き続けることに魅力や利点を感じてもらえるようなマネジメントをしなければなりませんね。この会社や職場で働くことの魅力や利点を言えないといけませんが、言えますかね?
私の場合、もっと会社や制度の事を勉強しないといけないです・・・
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最後に、R(転職への抵抗感)について。
今の20代~30代の人たちは、転職に抵抗感がないのかもしれません。つまり、上記公式の右辺が小さいので、所属先への不満(の持続性)や自分への自信の影響で、いとも簡単に転職する可能性がありそうです。
とすれば、マネジャーは20代~30代の従業員に対しては、DとEを意識したマネジメントが特に必要。かといって、ここまで書いてきたように、特別なことをやることでもなさそうです。
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今日は『転職学』という本をきっかけに、マネジャーとして、部下の転職を防止したり、低減したりするために何ができるのか/何をしたほうが良いのかを述べてきました。
いま目の前にいる従業員が、この先もずっと居てくれるはずだと安心せず、「この会社/職場が良い」と自ら選んで居てくれるような状況をつくることですね。
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