経営者層、人事界隈で話題になっている言葉がある。それは・・・
ウェルビーイング
わが社はウェルビーイング経営を目指す、と謳っている複数社あるのだが、現場からすれば、恐らく
なんのこっちゃ?
であろう。
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ウェルビーイングには、日本語で「健康」とか「幸福」、「福祉」、「よいあり方」という意味があるようだ。心も、体も、社会も健康といった感じだろうか。
転じて、ウェルビーイング経営とは、近江商人の ”三方よし” の精神のように、従業員よし、お客様よし、社会よしを実現する経営のことを言っている。
”三方よし” は確かに理想だ。しかし、
言うは易く行うは難し
と感じる人が多いのではないか。
とはいえ、ウェルビーイングという考え方は、これからの組織の持続的成長にとっては、とても重要な考え方のようである。
今回読んだ本は、”ウェルビーイング” に関する国内の第一人者である研究者(ご夫妻)の書かれた本である。
本には、ウェルビーイングとは何か、注目されている社会的背景、先行研究、ウェルビーイング経営とはどのようなものか、具体的事例など、ウェルビーイングにまつわることが網羅的に(とはいえ表層的ではない)書かれている。
現場のマネジャーにはまだ届いていないと思われる ”ウェルビーイング” というコンセプト。
実は日々の組織マネジメントにも有益な考え方が満載なのである。お勧めしたい。
以下は、現場のマネジャーに参考になると思われる私の感想を3点。
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① ”幸せ” な状態はビジネスにプラス!
幸せな人は創造性が3倍高いこと、生産性が1.3倍高いこと、寿命が7年から10年長くしかも健康であることなど、多くのことが分かってきました。(25ページ)
”ウェルビーイング” という言葉のもつ意味の一つである「幸福(=幸せ)」。
統計的な分析で、”幸せ” に関連し、このような結果が出たことにより、ウェルビーイングがビジネス面で注目されてきている。
しかし、”幸せ” がビジネス面でもプラスをもたらすことが理解できたとしても、”幸せ” という言葉の持つ妙な怪しさ、胡散臭さから、現場レベルにまで ”ウェルビーイング” が浸透していかない気がしてならない。
この本を読み、それではもったいないと感じた。
ウェルビーイングをちゃんと理解すれば、怪しさなど微塵もない。
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② ウェルビーイングはミドルマネジャーを救う
年齢と幸福度の関係はU字状のカーブになることも明らかにされています。(中略)
人間は、生を受けてから年を重ねるごとに次第に不幸感が増していき、50歳頃に底を打ち、それを超えるとまだ幸福感が増していく、という傾向があるようです。40代、50代は、会社で中間管理職になったり、家族や生活を背負ったり・・・(83~84ページ)
中間管理職=ミドルマネジャーが大変なのは間違いない。
いわずもがな、業績管理、労務管理、ハラスメント問題などなど、ミドルマネジャーの心身への負荷はますます増加する傾向にある。
その状況を変える可能性を持っているのが、ウェルビーイング(経営)と思われる。
本の中に、ウェルビーイング経営を実践している会社がいくつか紹介されているのだが、その中の一社では「経営しない経営」をやっていると書かれている。
「経営しない経営」とは、マネジメント層があれこれ指示を出さずとも、従業員が主体的に考え、イキイキと働いているような状態で、その会社は高い顧客満足を得ており、業績も毎年成長しているようである。
部下が主体的に考え、イキイキしているなんて、中間管理職にとっては理想的な状態である。(中間管理職は不要という見方もできる?)
著者曰く、ウェルビーイング経営を実践し、成果に現れていると言える企業に(今のところ)大企業はない ようである。
企業規模がウェルビーイング経営の実践の壁になっているのは何となく理解できる。それに加えて、短期的な成果志向の会社ほど、ウェルビーイング経営の実践は困難だろうなと個人的には感じている。
ウェルビーイング経営の実践には、トップの相当な覚悟、ミドルマネジャーの理解が不可欠だろう。
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③ コーチングはやっぱり大切
相手の話をしっかりと聞かずに途中で話をさえぎると、相手は満足感を得られませんから、幸せではなくなります。相手の話を傾聴し、批判せずにじっくりと会話をできる人は幸せです。(90ページ)
部下が ”幸せ” を感じられるようにするための、部下の悩みや、夢、希望、目指すものなどを引き出す接し方、コーチングは重要なようだ。
以前にコーチングを実践することの難しさ/大切さをブログに書いた(関連ブログへ)のだが、やはりミドルマネジャーの皆さんはコーチングは習得したほうが良さそうだ。
コーチングにより、部下が ”幸せ” を感じられるだけでなく、相手の話を傾聴することは上司自身の幸福度も増すようである。
大分大学の岩野卓講師の研究成果である「ウェルビーイング促進行動目録」の中に、幸せに影響する行動の一つとして「対人支援行動」というものが挙げられている。(92~93ページ)
これは、友人や知人の相談にのる、人の悩みや愚痴を聞く、困っている人を助ける、といった行動である。
部下の相談にのるくらい、日常でやっているよ!
という人もいるだろう。以下の観点で内省するとどうだろうか。
*本当に部下の立場になって相談にのっているか
*利己主義の考えはなく、利他の気持ちでやっているか
*まず、部下がこの職場で頑張ってくれていることに本当に感謝しているか
私は正直に言うと、YESとは言いきれない。(仕事として聞いている側面があるなぁ・・・)
部下のウェルビーイングを向上させるため、そして自分のウェルビーイングを向上させるためにも、部下の話を丁寧に聴こう。
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途中でも書いたが、幸せという言葉のもつ怪しさから胡散臭さを感じたりと、本質的でないところで、ウェルビーイングが国内企業に浸透していかないというのはもったいない。
経営層や人事界隈だけでワイワイやっていても無意味なので、現場のマネジャーの皆さんに本当に知ってほしいコンセプトである。
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