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360度評価は育成目的でこそ(その1)

アンケートシート 360評価
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360度評価(多面評価)とはどんなものか

従来より、多くの企業でミドルマネジャーを対象に、360度評価(多面評価とも言う)といったことが行われている。どのようなものかを少し説明すると・・・・

ミドルマネジャーを中心に置き、彼/彼女の周囲(360度)を取り囲んでいる上司・同僚・部下に協力を依頼し、マネジャーの普段の行動について複数の質問に回答してもらう。

例えば、「対象者(マネジャー)は、業務目標を話し合うときにその背景や目的を必ず説明している」といった質問である。

マネジャー自身も自らの普段の行動を振り返り、同じ質問に答える。

そして、結果はフィードバック・レポートとして、マネジャー自身で付けた得点、周囲が付けた得点(平均点)、自分と周囲の得点ギャップなどの情報が返却される。

360度評価とはざっとこのようなものである。

360度評価の実施目的は「人材育成」しかありえない!

”評価” と名前が付いているので誤解されるのかもしれないが、本来360度評価は、人事部や周囲がマネジャーを ”評価” するために実施するものではない。マネジャーの ”育成” を目的に行うものである。

360度評価の結果をマネジャーの ”評価” に使うには、いかにも無理がある。理由をいくつか挙げると・・・・

1.バイアスの存在
2.高得点=良いマネジメント・・・・とは限らない
3.部下が少人数だと、部下は答えづらい

他にも理由は挙げられるが、とにかく ”評価” に使っていいことなど何もない。以下、記載したことを順に補足説明する。

まず、バイアスに関しては通常の人事考課でも言われることで、ハロー効果など「人が人を評価する」ときに起こりがちな偏見(バイアス)が360度評価でも起こってしまう。

例えば、普段から良い印象を抱いている上司(マネジャー)に対して、部下はおおよそ全ての質問に対して良い評価(5段階評価で「4」か「5」)を与えがちである。悪い印象を抱いている上司には逆の評価となる。

実際にそうなのかもしれないが、多くの場合は実態を表していないだろう(全部できている/できていない人なんていない)。1つひとつの質問について、協力者は普段のマネジャーの行動をじっくりと思い返すことなく、大体こんな感じだろうという印象で回答しがちだと思われる。

そういった性質をもった情報を ”評価” の要素として使うのは危険である。(360度評価の結果を、評価や選抜に使いたいというニーズは経営層が持っていることが多いのではないか・・・no evidenceですが)

高得点=良いマネジメントをやっている、とは限らない

2点目の「高得点=良いマネジメント・・・・とは限らない」という点だが、世間には、部下に「受け」はいいのだが、組織成果を出していないマネジャーがいる

マネジャーへの期待は組織成果(業績)の創出にある。だからと言って、組織成果さえ出していれば、部下が疲弊してもいいかというとそうではない。組織の持続的成長のためには、従業員にイキイキと働いてもらう環境をつくらねばならない。それもマネジャーへの期待である。

ここで言いたいのは、マネジャーは経営側の人間であるという点。にも関わらず、ネガティブな意味で、従業員側に立ち過ぎているマネジャーがいる。従業員側のオピニオンリーダーかのように、「会社のここがダメ」「うちのトップは現場を理解していない」などと、部下の前で会社や会社のやっていることを批判する。

会社に対して不満を持っている部下からすれば、「このマネジャーは私たちのことを分かってくれている人だ」と思うので良い印象を抱く。だから、360度評価をやると高得点になる。でも、成果は上げていない・・・。

そんなこともあるので、360度評価を ”評価” に使うのは危険である。

上意下達の、マッチョな会社での実施は要注意!

3点目の「部下が少人数だと、部下は答えづらい」のは、容易に想像ができるだろう。

「上司が部下を評価する」のは日常的であるが、日本で「部下が上司を評価する」のは非日常である。ましてや、自分が上司をどう評価したのかがバレそうな状況下で、正直に回答するにはかなりの勇気がいる。

結果のフィードバックレポートには平均点だけでなく、回答のバラつきが記載される場合もあるので、最少でも4~5名の回答協力者がいないと、部下からは ”意味のある(正直な)回答” はもらえないだろう。

ましてや、360度評価の結果をマネジャーの評価に使うなんてことがわかれば、協力者(特に部下)のみならず、マネジャー本人も回答に対して神経質になる。そうなると、結果はどれだけ良い情報と言えるだろうか。

個人的な経験では、上意下達で成果(数字)が全てといった風土を持つマッチョな組織、出世争いが激しく内向きな組織での360度評価の実施は、仮に育成目的としてやるのであっても、かなりの丁寧かつ慎重な準備が必要だろう。

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今回は、360度評価を育成以外に使うのは危険だという内容を書いた。次回は、360度評価を育成にどう活用していくかを書こうと思う。(次回ブログへ